古くから製造業をはじめとする日系企業が拠点を構えることが多いタイ。一時は政情不安もあったが、アジアの成長地域としての魅力は依然として高い。現地に進出するユーザー企業などに向け、市場環境やタイICT業界の現状、日本と異なる文化や法規制に関する注意点を解説する。

 タイの企業向けICT(情報通信技術)市場は拡大を続けている。タイのソフトウエア産業振興庁(SIPA)や国立電子・コンピュータ技術研究所(NECTEC)らの共同調査によると、2010年の通信を除くICT市場規模予測は2133億1600万バーツ(5865億円)。2009年の実績は1936億600万バーツ(5324億円)だったので、前年度比10%の成長となる(図1)。

図1●タイのICT市場規模(2010年は予測)
図1●タイのICT市場規模(2010年は予測)
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 2008年から2009年は前年度比18%の成長だった。世界的な不況や政情不安の影響を受けて成長が鈍化しているとはいえ、タイのICT市場は大きな影響を受けることなく、二ケタ成長を続けている。

 なかでもコンピュータ関連サービスの成長が著しい。2008年からの2年間で、市場規模は2倍以上になっている。具体的には、前出の2010年の市場規模予測でITサービスが573億9200万バーツ(約1540億円)となった。コンピュータハードウエアは880億4000万バーツ(約2370億円)、ソフトウエアは678億8400万バーツ(約1830億円)である。

 大企業を中心に、アウトソーシングサービスなどの利用が広がっていることが、背景にある。通信回線の品質向上に伴い、2009年ごろから、社外のデータセンターを使ったり、クラウドサービスを利用したりする企業が増えている。従来はハードウエアを購入して、自社でICT機器を保有する形態が一般的だった。

 非上場のオーナー企業や中堅以下の規模の企業は、依然としてハードウエアを購入して自社で運用する傾向が強い。タイでは非上場のオーナー企業が多く、その大部分が外資企業との競争にさらされていない。ICTに対する考え方が大手企業ほどドラスティックに変化していない。

 以下では拡大を続けるタイのICT業界について、まず主要なIT企業やタイ国内ITサービスの現状を述べる。次いで現地に進出する日本企業やその情報化を支援する企業に向けて、タイ独自の文化や法規制による注意点を解説する。