総務省の利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会は2011年5月12日、「電気通信サービス利用者ワーキンググループ(WG)」の第8回会合を開催した。今回は東日本大震災の発生を受け、利用者の視点から見た電気通信サービスの課題や改善すべき点を議論した。

 まずは国民生活センターの担当者から、震災に関係する電気通信サービスについての相談事例が報告された。被災地で携帯電話が利用できないことに対する料金関係の事例が多かった。

事例1:利用できない期間の料金も請求される

 携帯電話会社のホームページに、「被災地の方の電話料金を一定期間無料にする。申し込み不要」とあったため、無料になると思っていたが請求書が届いた。携帯電話事業者に問い合わせると、震災後に一度も利用していないなどの条件があるという。ホームページではすべて無料になると誤解を招く表現になっている。

事例2:利用できないスマートフォン

 震災後も自宅でスマートフォンは使えていたが、急にインターネットにつながらなくなり、通話もひんぱんに相手の声が聞こえなくなるようになった。携帯電話事業者に問い合わせたが、市街地に外出した時は利用できていることから、料金免除の対象にはならないと言われた。自宅で利用できなくなった原因の説明はなかった。料金の減額を求める、または契約を解約したい。

事例3:利用できない光回線の料金を請求

 震災で不通だった光回線が開通したが、再び5日間不通になった。通信事業者に問い合わせたが、「プロバイダ料金が未納ではないか」「勝手に設定を変えたのではないか」と言われた。結局原因は交換局のトラブルだと分かった。しかし不通だった5日間についても料金を請求すると言われた。

 この三つの事例以外には解約や休止に関する相談も多かった。本人でないため解約手続きができない、休止期間も料金がかかるといったものだった。

事例4:入院した父親の携帯電話が解約できない

 津波で父親の携帯電話はなくなった。父は怪我で入院しており、自分の名前も分からない状態である。携帯電話事業者に父親の契約を解約したいと伝えたが、本人の署名が必要だと言われた。署名は無理だ、何とかならないか。

事例5:名義人が父親でなく、解約できない

 父親が震災で死亡した。父親の住居は津波で浸水し、帰宅できない状態である。そこで通信事業者に回線の解約を申し出た。しかし回線の名義人が父親ではないため、解約手続きができないと言われた。どうしたらよいか。

事例6:休止期間も料金が発生する

 津波で自宅兼事業所が流された。固定電話を休止する手続きをしたが、休止はできるが毎月の基本料金は支払ってもらうと言われた。事業所の電話番号を変えたくないので、解約はしたくない。再建まで1年以上かかると思う。この間休止している回線の基本料金を取るのはおかしい。支払いたくない。

 国民生活センターの担当者は、「通信事業者は基本料金の減免や支払い猶予といった被災者向けの対策を用意しているが、肝心の被災者に伝わっていないというケースもあった。混乱している中で、消費者は自分の状況を伝えにくい」と相談を受けた印象を述べた。

被災時の通信利用に対する啓蒙が必要

 最後に行われた構成員による質疑応答では、被災時における通信利用方法について、利用者へ教育や啓蒙をすべきという意見が多数出た。

 例えば野村総合研究所 上席コンサルタントの北俊一氏は、「非常時に公衆電話から携帯電話へかけたとしても、非通知拒否設定をしていて受けられないという例もあった。また、発信規制をかけているときに逆に長く話してしまい、ますます通話できない人が増えたと聞いた。通話は短く済ますなど、非常時での通信の使い方について教育や啓蒙すべきではないか」と意見を述べた。

 主婦連合会の木村たま代氏は、「携帯電話の緊急地震速報が注目を浴びたが、届かない人もいた。機能がない機種なのか、届かない設定にしているのか、こうしたこともさっぱり分からない人も多かった。また災害時の安否確認には災害伝言板を使えばと啓蒙しているが、使っていない人はいざというときに使い方が分からない。手だてを考えるべき」と同様に教育の重要性を訴えた。