前回(第5回)はIFRS(国際財務報告基準)導入プロジェクトを3つのフェーズに分類し、最初のフェーズに当たる「予備調査」の重要性を説明した。予備調査においては後続フェーズの作業ボリューム、影響範囲の見極めとリスクの把握といった重要なファクターを認識し、プロジェクトの方向性や目標、そしてマスタープランを策定する。
今回はその後のフェーズの活動内容を解説する。その前に、なかなか理解してもらいにくいマスタープラン策定の重要性について前回に続いて説明を加えたい。
マスタープランでは巻き込み方や周辺タスクも整理しておく
IFRS適用プロジェクトは、タスクが多岐にわたる。そのため、多様なバックグラウンドを持つメンバーに参加してもらう必要がある。しかも多くの社員にとって初めての経験となる。
そうしたメンバー全員に、活動方針を明示することは成功の必要条件となる。マスタープランはまさに「何をいつまでにやるのか」「検討はどの程度に詳細かつ具体的に行うべきなのか」といった活動方針のよりどころになるものだ。それだけに、IFRS適用プロジェクトの成功は、このマスタープランの完成度にかかっている。
また、マスタープランには、綿密なコミュニケーションプラン(巻き込み方)を含めるべきである。例えば、グループの会計処理方針を定め、会計マニュアルを作成するタスクでは「どの段階でどのようなコミュニケーションを取るべきか」を事前に計画しておくとよい。
例えば子会社とのコミュニケーションの取り方の一般的な選択肢としては、トップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチがある(図1)。どちらを選択するかでコミュニケーションの方法、タイミングは異なる。
また、マスタープラン策定の際には、会計や業務システムといったIFRSの影響が直接及ぶ領域ばかりでなく、人材マネジメントや経営管理プロセスの見直しといった、経営改善などのために行う周辺タスク群についても検討することが大切だ。それらと、会計マニュアル作成やシステム改修といったIFRS関連のプロジェクトとを統合するタイミングや、先行・後続関係を整理し、明確にしておく必要がある。
このように、周辺領域でマスタープランに含めるべきタスクとしては、「経営管理プロセス/システムの検討」「コード体系の統一」「決算早期化」「与信管理・リスク管理の仕組みの見直し」などが考えられる。これらの目的やスケジュールを把握し、他のプロジェクトと食い違いが無いように留意する。取り組み領域の重複など二重投資が発生しないかどうかにも注意を払うとよい。