「創業的出直しの覚悟で取り組む」。みずほFGの塚本隆史社長は5月23日、システム障害の対応策を発表する記者会見で、力を込めた。

表●システム障害の再発防止策
表●システム障害の再発防止策
[画像のクリックで拡大表示]

 塚本社長は35項目にわたる具体策を示し、システム障害の再発防止を誓った(表)。同時に、みずほ銀とみずほコーポレート銀行の経営統合による「ワンバンク」を目指すと明言した。

 大規模障害の経緯を細部まで公表した上で再発防止策をまとめ、さらにみずほ銀とみずほコーポ銀の経営統合にまで踏み込んだことで、信頼回復に向けた意気込みを示すことはできた。

 それでも、みずほ銀が大規模システム障害を再発する恐れはまだ残ると、本誌は断言する。発表内容のなかに、再発防止に向けて最も重要な内容が欠けているからだ。

 それは、CIO(最高情報責任者)の人事である。

 みずほFGは5月23日、みずほ銀でシステム担当役員を務める萩原忠幸常務執行役員が6月20日付で退任する役員人事を発表した。ところがその後任については、5月23日までに決められなかった。障害発生から2カ月が過ぎているにもかかわらずだ。萩原常務執行役員と共に引責辞任する西堀利頭取の後任にみずほFGの塚本社長が就くことは、23日に発表している。

 CIOはシステム部門を統括し、経営トップの下でIT戦略を作成・遂行する責任を持つ。経営陣とシステム部門をつなぐ役割も担う。システム装置産業といえる金融機関にとって、極めて重要なポストだ。ここが空席のままでは再発防止策を決めても意味がない。

「三菱東京UFJ銀」か「東証」か

 企業がITガバナンスを抜本改革する必要に迫られたとき、CIOの任命方法は二つしかない。「三菱東京UFJ銀行」方式か、「東京証券取引所」方式である。前者は経営トップ候補を任命するやり方だ。後者は社外からの招聘である。

 三菱東京UFJ銀行は前身の旧三菱銀行の時代から20年以上にわたり、頭取候補をCIOに就かせている。単に肩書きだけということではなく、頭取候補にCIOとして実際に大規模プロジェクトを指揮させてもいる。

 例えば畔柳信雄会長は頭取就任前の1990年代、常務取締役として、旧三菱銀行と旧東京銀行との合併に伴うシステム統合プロジェクトの陣頭指揮を執った。

 さらに畔柳会長は頭取時代、旧東京三菱銀行と旧UFJ銀行のシステム統合プロジェクト「Day2」にあたって、システム部門の経験がなかった永易克典頭取(当時副頭取)をプロジェクトの最高責任者に任命した。

 その狙いについて、畔柳会長は本誌のインタビューで「経営トップができる限りシステムに詳しくなっておくことが、我々の組織にとって百年の計になる」と述べている。

 こうした伝統が、ITガバナンスの強化とシステムの安定運用につながっている。

 一方の東証は、外部からCIOを招きITガバナンスを立て直した。東証は2005年の11月と12月に大規模なシステムトラブルを起こし、直後に社長が辞任する事態に発展した。ここまではみずほ銀と重なるが、東証は当時会長だった西室泰三氏(現・東芝相談役)が社長を兼務すると、自らCIO探しに奔走、2006年2月1日付でNTTデータグループから鈴木義伯氏(現・専務取締役)を招いた。トラブルから2カ月も経たずに、社外からCIOを招き入れた。

 東証は西室氏と鈴木CIOのリーダーシップによって、株式売買システムの全面刷新プロジェクトを断行。2010年1月に新システム「arrowhead」を完成させた。arrowheadは稼働以来、ノーダウンが続く。