2011年6月1日から3日の3日間、パシフィコ横浜で国際技術会議「LinuxCon Japan 2011」が開催された。基調講演ではLinus Torvalds氏が、リリース候補版を公開したばかりのLinuxカーネル 3.0の真意を語った。また前日の5月31日にはプレイベントとして災害時のITによる協業をテーマとするイベント「The Power of Collaboration in Crisis」が開催された。

 LinuxCon Japan 2011とThe Power of Collaboration in Crisisを主催したのはLinux普及推進のための非営利団体であるThe Linux Foundation。The Linux Foundationジャパンディレクタ 福安徳晃氏は、「オープンなコラボレーションが持つ力。その実例を我々はLinuxという形で知っている。今回の震災に際しても、被災者支援のためのオープンなコラボレーションに基づく多くの取り組みが行われている」と語る。

のべ250人のボランティアが支えたsinsai.info

 その一つがsinsai.infoだ。sinsai.infoは東日本大震災に関する避難所やボランティアなどの情報を整理、地図上で閲覧できるサイトである。震災直後4時間経過しないうちに立ち上げられ、のべ約250人が開発や情報の入力・整理に参加、1万件以上の情報が登録されている(関連記事)。

 sinsai.info副代表でOSMファウンデーション ジャパン 代表理事の三浦広志氏は、これだけ迅速に開設でき、多くのメンバーが協業できた理由を、「プラットフォームのUshahidiが、ハイチの地震などに使われた実績のあるオープンソースソフトウエア(OSS)だったから」と語る。UshahidiがOSSだったから、現sinsai.info代表の関治之氏は購入手続きなども必要とせずすぐにサーバーにインストールしてサイトを立ち上げることができた。Twitterなどでの呼びかけによって集まってきた技術者たちは、誰にも命令されることなく、自ら問題を見つけてはソースコードを調べ、不具合を修正していった。それがOSSの開発スタイルであり、文化だったからだと三浦氏は言う。

写真●sinsai.infoの三浦広志氏
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選挙の不正監視のためのUshahidiが災害対応基盤に

 sinsai.infoのプラットフォームである「Ushahidi」チームのディレクターであり、ハイチの地震の際にUshahidiを使ってHaiti Crisis mapを立ち上げたのがPatrick Meier氏だ。Ushahidiは2008年、ケニアで選挙の不正を監視するサイトのために開発された。スワヒリ語で「証言」を意味する。

 2010年のハイチで大地震が発生した際、Meier氏はアメリカのボストンにいた。「何か自分にできることはないだろうか」。Meier氏はUshahidiを使った災害情報サイトを立ち上げることを思い付く。Ushahidiチームの技術リーダーはMeier氏の提案に応えすぐにサイトを立ち上げた。Meier氏はインターネット上でサイトへの投稿を呼びかけた。Meier氏の呼びかけに応じ、その週に100人のボランティアが情報の入力・整理に協力した。「ボストンで、アフリカ生まれのソフトを使い、大勢の人々が衛星写真やインターネットの情報をハイチの地図上に入力していった」(Meier氏)。ボランティアは増えていき、翌週には米国以外からも数百名が参加した。Haiti Crisis mapはアメリカ海軍の救助活動にも利用された。Ushahidiはその後も、エジプトやリビアの民主化運動など様々な場面で使われている。

 緊急事態の際に力を結集できるようボランティアとして登録しておく「Standby Task Force」という取り組みもある。「ぜひ参加してほしい」とMeier氏は呼びかけた。

写真●UshahidiのPatrick Meier氏
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復興支援アプリを作る「Hack for Japan」ハッカソン

 新直後から、IT業界の有志による、被災者支援や復興に役立つアプリやサービスの開発をサポートするプロジェクトが活動している。「Hack for Japan」だ。東日本大震災から約1週間後の2011年3月19日から21日にかけて第1回のハッカソンを開催、京都、福岡、岡山、徳島の会場に合計数十人が参加、インターネットでは500人以上が参加した。258個のアイデアが投稿され、デマ情報を判別するサービスや炊き出し情報検索サービス、ペットファインダーなどの支援アプリ開発が行われた。

 第2回は5月21日と22日の2日間、仙台・会津若松・高松・福岡・ロンドン・東京の6会場で開催した(関連記事)。6会場で合計100人以上が参加、約20のプロジェクトが開発を行った。ガイガーカウンターの測定値を自動でアップロードし地図上に表示するシステムや、復興する被災地の写真を次々と表示するスマートフォン時計アプリ「復興時計」や、復興関連の有用な情報に投票できるようにする「復興イイネ」ボタンの開発が行われた。講演したHack for Japanスタッフの山崎富美氏は「復興はこれからも続く。長く続けるために、ハックを楽しもう」と語りかけた。

写真●Hack for Japanの山崎富美氏
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日本Androidの会による被災者支援アプリ開発

 日本Androidの会にも、被災者支援アプリを開発するpayforwardingプロジェクトが設立された。「近くの避難所」、「避難場所検索」、すれちがい通信でメッセージを届ける「Monac」、助け合いジャパンのボランティア情報サイト専用クライアント「ボランティアステーション」、sinsai.infoクライアント「sinsai.info」、震災に有用なTwitterアカウントを一覧できる「がんばろう日本」、救助要求を発信/受信する「SOSビーコン発信」および「SOSビーコン受信」などのアプリを開発。これらのアプリをまとめたアプリ「BindPayforwarding」もAndroidマーケットで公開している。

写真●日本Androidの会payforwardingプロジェクトの飯塚康至氏
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