2011年2月にスペインのバルセロナで開催された「Mobile World Congress 2011」(MWC2011)では、通信事業者主導のアプリケーション事業に関する新たな発表やスピーチが相次いだ。事業者の思惑通りにいけば、既存のアプリ提供や開発の枠組みを大きく変えることになるかもしれない。


 大手通信事業者が参画する業界団体のWAC(Wholesale Applications Community)は2011年2月、アプリケーション提供の共通プラットフォーム仕様の最新版となる「WAC 2.0」と次世代版の「WAC 3.0」へのロードマップを発表した。発表と合わせて、スペインのバルセロナで開催されたモバイル業界最大の展示会「Mobile World Congress 2011」(MWC2011)には展示ブースも構えた。WACは1年前のMWC2010で大手通信事業者24社が強調して設立した、アプリケーション提供の共通プラットフォーム作りや開発環境の提供を目指す業界団体である。

WAC 2.0はHTML5がベースに

 MWC2011で発表されたWAC 2.0の最大のポイントは、WAC対応アプリを「HTML5をベースとしたWebアプリ」と位置付けたことである。つまりWAC対応アプリはWebブラウザー上で動く。これは「OSフリーなアプリ提供環境を構築する」というWACのコンセプトを体現したものになる。スマートフォンやタブレット端末向けのアプリが異なるOSの端末でも動作する枠組みを作り、米アップルや米グーグルが幅を利かせる垂直的なアプリ配信体制のルールを変えよう---というのがWACの狙いである。

韓国版WACが2011年5月に始動

 WAC 2.0をベースにしたアプリケーション配信の仕組みは既に韓国で構築されつつある。韓国では、2010年春より通信事業者3社が共同アプリケーションストアを構築する動きを見せていたが、2011年5月にはそれが「Korea WAC(K-WAC)」としてスタートする予定である。K-WACはアプリ流通の流れの中で“卸店舗”になる。WAC 2.0対応アプリはK-WACから各通信事業者に提供され、各社のユーザーは各社のアプリケーションストアからアプリを入手する形になる(図1)。

図1●Korea WACの仕組みとアプリの流れ<br>Korea WAC(K-WAC)は韓国の通信事業者3社が構築する共同アプリケーションストアである。
図1●Korea WACの仕組みとアプリの流れ
Korea WAC(K-WAC)は韓国の通信事業者3社が構築する共同アプリケーションストアである。
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 K-WAC構築の狙いは、まずは韓国の通信事業者がアプリ提供ビジネスで存在感を発揮すること、さらには韓国のアプリ開発者が世界市場にアプリを販売できるような仕組みを整えることにある。

 端末面での準備も順調と言える。MWC2011のWAC展示ブースで韓国サムスン電子の説明員に聞いたところ、MWC2011後に市場投入予定の新機種「Galaxy S II」と「Wave II」はWAC 2.0対応として販売するという。さらに、既に出回っている同社製スマートフォンのほぼすべての機種で、HTML5対応ブラウザーとWACランタイムの実行が可能とした。対応端末は新機種への乗り換えを待たずしてかなりの数になりそうだ。