2004年にKDDI EUROPE(ロンドン)に赴任してから、欧州での勤務は既に7年目。この間、ドイツのデュッセルドルフ、フランクフルト、そして今のベルギーと、3カ国4都市を渡ってきた。ビジネスでは、北はロシア、そして東欧、中欧、西欧、南欧諸国、さらには南アフリカまで赴いた。

 これはひとえに、欧州では隣国との距離が非常に近く、ビジネスエリアも広大なものとなるためである。ただ、それぞれに地域の特性があり、文化や言語、商慣習が異なる。例えば、ここベルギーは、フレミッシュと呼ばれるオランダ語圏、ワロンと呼ばれるフランス語圏、そして東部一部エリアのドイツ語圏がある。一つの国の中ですらこのような状況だから、欧州というくくりでは、その多様性は大変なものとなる。

 このため欧州のビジネスシーンでは、時に、我々の思考と発想を根底から変えなければならない。ビジネスパートナーやユーザーとの議論、交渉、取引の場では、それが特に顕著に表れる。

 例えば電話やインターネットのサービス提供を受ける場合、予定した日にエンジニアが来ないことはごく当たり前。法人で利用するデータ通信回線の疎通などに当たっては、そういうわけにはいかないため、我々が四苦八苦しながらスケジュール調整する。

過ぎたるは及ばざるがごとし?

 我々の考えるTCS(Total Customer Satisfaction)も、欧州の人々には過剰(Too much Customer Satisfaction)に見え、あまり良い印象、評価をもらえないことがある。「どうしてそこまでやるのか」と混乱させてしまうらしい。例えば赴任して間もない頃、欧州人の同僚に日本風の「綿密」な資料を英訳して見せたところ、「ポイントがよく分からない」と言われたことがある。日本なら「ラフ」と見られそうな資料に作り変えて、やっと理解してもらえた。

 様々なシーンで、相手が何を本当に求めているのかを理解するには、本質的に現地の人の考え方、習慣を理解しないと議論や交渉の場でのコミュニケーション、サービスの提供は不十分となる。今は現地現物主義に徹し、最前線でこちらの人たちとビジネスを行うことで肌身で感性が養われ、経験が培われるのだろう。

 一方で、決して我々自身のアイデンティティーを忘れることはできない。確固たる自身の存在と、そのアピールがあってこそ、多様性と柔軟性の渦の中にどっぷりと溶け込むことができるのだ。一番大切なことは、これらを日々自問自答しながら、自分なりの確固たるアイデンティティーを持つことであり、そうであってこそ多様性と柔軟性に満ちたこの欧州のビジネスシーンで活躍できるのではないだろうか。

濱田 達弥(はまだ たつや)
KDDIドイツGmbHベルギー支店支店長。ロンドン、ドイツでの赴任を経て欧州7年目。過去に東欧・ロシアでの市場開拓にも奔走、ビジネスのあるところならどこへでも出向く。目下の趣味はジム通いとオートバイ。