ベトナムは経済成長率が常に5%を超え、「安価な労働力」としての存在から「成長するマーケット」に移行しつつある。所得の上昇が続き、国民の購買意欲はどんどん旺盛になっている。

 現在、消費の中心は女性である。77%は仕事を持ち、高級化粧品や洋服などの買い物を楽しんでいる。家電製品なども高価なものがよく売れている。国民全体に「高価なもの」=「高品質」ととらえる傾向が強く、冷蔵庫なら2ドア、洗濯機は全自動タイプが売れ筋だ。

 その中にあって「日本」ブランドへの憧れと人気は、びっくりするほど高い。ベトナムでは年間120万の新生児が誕生するが、日本製の粉ミルクは大人気商品の一つになっている。

携帯電話は普及率113%

 そのベトナムにおける2009年のICT関連投資額は68億6700万米ドル。これはベトナム全体の投資の10%を占める。

 中でも割合が高いのは携帯電話関連の投資で、ICT関連投資全体の58%に達する。ベトナムでは固定電話の普及率が20%にとどまっているのに対し、携帯電話の普及率は113%。固定を飛び越えて一気に携帯電話が普及した。いまやベトナム人にとって携帯電話は、車、バイクに次ぐステータスシンボルとなっており、高級、新型モデル志向が強いことには驚かされる。

課題はeコマースのインフラ整備

 このように高級品志向が強まるベトナムで、次にビジネスチャンスと言われているのは「eコマース市場」だ。

 当地でも既に約50社のeコマース関連会社が生まれた。ただ、まだ乗り越えなくてはならない課題がある。それは安心・安全な『決済システム』と『宅配システム』だ。ベトナムでは最近やっとクレジットカードやローンが普及してきたが、やはり現金至上主義は根強く残っている。

 しかも商習慣として先払いが求められることも多々ある。今後eコマースを発展させるためには、セキュリティの高い安全な決済手段や、購買後のデリバリーを保証する消費者保護の仕組みが必要になる。当社としては、そのプラットフォームとして、「高品質」「安心・安全」を売り物とする日本品質のデータセンターを提供し、新ビジネスの発展を支えたいと考えている。

 東日本大震災以降、ベトナムの多くの方々から励ましの言葉をいただいた。当社のパートナーであるベトナム最大の通信会社VNPT(郵政通信総公社)のハノイ電話局では、約200人の関係者が一堂に集まり、寄付金を募るチャリティーの会合を開催してくれた。多くの日本人駐在員およびそのパートナーも気持ちが一つになり、東シナ海を越えて日本へとつながっている。

後藤 雅人(ごとう まさと)
NTTコミュニケーションズ(ベトナム)代表取締役社長。2007年4月から現職。ベトナム駐在は1998年を含めて2回目。北部(ハノイ)、南部(ホーチミン)の往復は既に50回を超え、公共の場でベトナム人に間違えられることに、もはや抵抗感もなくなった。バイクの喧騒が少ない週末は、緑多い街並み散策と地ビール、そしてスケッチを楽しむ。