三菱東京UFJ銀行のインターネットバンキングシステム開発。品質確保は最大のテーマだった。世界最大規模のプロジェクトで、総数50万件もの過酷なテストをどう乗り越えたのか。プロジェクトを率いた大森久永氏に聞いた。(聞き手は池上 俊也=日経SYSETMS)

日立製作所 大森 久永(おおもり ひさなが)氏
日立製作所 大森 久永(おおもり ひさなが)氏

大森さんがプロジェクトマネジャー(PM)を務めた、三菱東京UFJ銀行のインターネットバンキングシステムの開発とは、いったいどんなプロジェクトだったのでしょうか。

 旧東京三菱銀行と旧UFJ銀行のインターネットバンキングシステムを統合するプロジェクトで、開発期間は2006年4月から約3年間にわたりました。統合完了は2008年末。ピーク時のメンバー数は600人に上り、インターネットバンキングのシステムとしては、世界最大規模のプロジェクトだったといえるでしょう。

 私はその中で、日立製作所のプロジェクトマネジャーを務めながら、三菱東京UFJ銀行側の立場でテストを推進する役割を担っていました。

膨大なケースとバラバラのスキル

金融機関の大規模システムということで、品質の検証も大変だったと思います。具体的に、テストフェーズではどんな難しさがありましたか。

 まず挙げられるのは、テストの数が膨大だったことです。機能の組み合わせパターンは無数にある上に、システムのユーザーインタフェースにはさまざまなブラウザーや携帯電話を想定する必要がありました。

具体的なテストケース数はどれくらいだったのですか。

図1●世界最大規模のテスト
図1●世界最大規模のテスト
三菱東京UFJ銀行のインターネットバンキングシステム「三菱東京UFJダイレクト」のテストは、セオリー通りにはいかなかった。工夫に工夫を重ねて、50万件もの膨大なテストケースをさばいた
[画像のクリックで拡大表示]

 単体テストと結合テストは複数のベンダーに分かれて実施しました。その数が約30万件です。その後、全モジュールを結合し、ユーザー側と共にシステムテストを実施しました。その数が約20万件。つまり、テストケースは全部で約50万件に上り、これを限られた期間でこなすのが任務でした(図1)。

そうなると、メンバーの確保も相当大変だったのでは。

 納期と品質が最優先だったプロジェクトでしたので、実はメンバーの確保は比較的しやすかったんです。しかし、携帯電話の画面をデジタルカメラで撮影してエビデンス(証跡)を残すなど、テストの効率はなかなか上がらず、人的な余裕はありませんでした。しかもメンバーのスキルはバラバラ。この状況でスケジュール通りにテストを進めるのは相当苦労しましたね。

スキル差の問題とは。

 テストが予定通りに進まずに、毎週外国人を含む20~30人のテスト担当者が新しくテスト現場にやって来ました。ところが、そのうち数人はスキル不足で次の週にはいなくなる。毎週、歓送迎会を繰り返して開催していたことを今でも思い出します。

複数の開発会社が参加する「マルチベンダー」という点も、難しさの根底にあったのでしょうか。

 それもあります。ベンダーによって、テストの目標値や技法、管理方法が全く異なりますから。そのため各社の考え方や方法論を尊重しつつ、プロジェクト全体の方向性を決定し、テストの効率や効果を高めていくのは、とても難しかった点です。