データこそが企業の資産であり、資産価値を高める諸活動が不可欠である。データ関連の活動を知識体系としてまとめたDMBOKが登場。そのなかでも「データガバナンス」の確立が急がれる。データ関連のポリシーや手続き、担当者の役割と責任を定義し、データにかかわる活動を統制するものだ。

 今、CIO(最高情報責任者)や情報システム部長は担当している情報システムや自身の仕事のグランドデザインを描き直す時期に来ている。その際には、データをマネジメントの対象にしっかり入れるよう見直す必要がある。

 データ資産を生み出し、その価値を高めていく活動全体を「データマネジメント」と総称する。まず必要なデータをあらかじめ設計し、マスターデータを整備しておく。MDM(マスターデータマネジメント)は、データマネジメントの重要な一部である。

 続いて設計通りのデータを生成し、記録し、格納し、使用し、同時に保護する。並行して、データにかかわるポリシーや標準、手続きや担当者の役割と責任を定義し、データ関連の諸活動を統制する「データガバナンス」を実施する。

 こうしたデータマネジメントは、情報化時代のサバイバル戦略であり、企業全体のガバナンスを向上させる長期戦略である。

 データマネジメントを包括的に進めるガイドとして、標準フレームワーク「DAMA-DMBOK(The DAMA Guide to the Data Management Body of Knowledge、データ管理知識体系ガイド)」が登場している。本稿では、DMBOKとその中核をなすデータガバナンスについて紹介する。

経営に寄与しないIT

 企業経営の基本要素が、人、モノ、金、そして情報であるとすると、4点のそれぞれを戦略的にマネジメントしなければならない。これまで、人、モノ、金はそれなりにマネジメントできていた。

 人とは、情報システムにかかわる社内外の人員配置を意味し、モノはIT資産、金は予算を含めた経費を指す。ところが、情報あるいはデータのマネジメントはどうかと言えば、ほとんど議論されず、そもそもマネジメントの対象になっていない場合が多い。

 情報システムの開発や運用の仕事に忙殺されていたためであろうが、本来、データこそが情報システム部門の「製品」であり、企業にとっての「資産」である。製品の品質管理を放棄しているメーカー、貴重な資産を放置している企業、いずれも存続が困難になる。人的資産、金融資産、不動産、固定資産と同様に、データ資産は企業戦略に基づいて管理されるべきである。

 プログラムがあっても、データがないか、あっても不備な状態では情報システムは成り立たない。多くの人たちがこの基本を忘れており、私たちは基本に戻る必要がある。

 多くの企業がERPパッケージを導入し、データウエアハウスを構築し、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールを取り入れた。新しい技術やツールの導入は進んだものの、経営の面から見て、それらが本当に有効であり、ビジネスに寄与したのだろうか。「銀の弾丸はない」と言い古されているにもかかわらず、新しいツールに多額の投資をし、しかも挫折しているのが現状ではないだろうか。

 データを作成し、操作し、かつアクセスするツールの性能は確かに向上した。しかし、それを使って、適切な意思決定ができているだろうか。顧客との関係は、正確なデータで管理されているか。商品や部品のデータは一元的に管理されているか。グローバルに展開したビジネスについて連結の決算データがタイムリーに手に入るのか。

 もし、できていないとすると、すなわちデータマネジメントが不在であるとすると、経営や事業に大きな問題をもたらすことになる。データマネジメントの不在は、コーポレートガバナンスから見ても問題である。

 内部統制の取り組みをきっかけに、ITガバナンスという言葉が取り沙汰され、例えばCOBIT(Control Objectives for Information and related Technology)というフレームワ ークが注目されたが、ここには情報やデータに関してほとんど書かれていない。COBITがデータについてあまり言及していないのは、データマネジメントは、ITというより、ビジネスマネジメントの範ちゅうだとみているからだろう。

 その通りで、データマネジメントは、そのデータを作り出す情報システム部門だけではなく、データを実際に使うビジネス部門が協力して取り組むべき仕事である。

 ところが、ビジネスにかかわる人たちがデータや情報システムにさほど関心を持たず、CIOや情報システム部長がツールに拘泥していると、データマネジメント不在の状態が続き、情報システムが企業にもたらす価値は低下し続ける。残念ながら、これが日本の現状である。

独立原則を貫くDAMA

 データマネジメントにかかわる団体DAMA(The Data Management Association International)は1988年に米国で設立された。現在、世界中で約40支部、7500名の会員を擁する。DAMA日本支部は2010年11月に設立され、2011年4月から本格的に活動を開始している。DAMAの原則は「ベンダー独立」「技術独立」「方法論独立」であり、日本支部も同じ原則にのっとっている。

 DAMAは、特定のベンダーや技術、方法論に依存せず、完全なボランティア団体として運営されている。例えばDAMA-DMBOKにはDAMAのメンバー約120名がかかわり、執筆と編集を担当しているが、すべてボランティアであり、各章の執筆者は原稿料を受け取っていない。

 DAMAは、『Enterprise Data World』と呼ぶ1週間のカンファレンスを毎年1回米国で開催している。欧州においてはIRM UKがデータマネジメントと情報品質のカンファレンスをやはり1週間開いている。日本において1週間の開催はまだ難しいが、2日~3日のカンファレンスを2011年に開催できればと考えている。