有限責任 あずさ監査法人
パートナー 公認会計士
山本 勝一

 本連載は、日本企業がIFRS(国際会計基準)を導入する際の留意点からIFRSによるインパクト全般までを主要な業種別に見ていくことを目的としている。前回(IFRS導入のメリットとロードマップ)は総論として、IFRS導入のメリットとプロジェクトの進め方を紹介した。今回から、業種別にIFRS導入のポイントを見ていく。まずは小売業を取り上げる。

 外食産業を含む小売業では通信販売業を除き、多店舗展開をしている会社が多い。このため、固定資産やリース会計などが会計上の重要な論点となるケースが多い。これに対し、ネット販売を含む通信販売業はリアルな店舗を有していないので、店舗など不動産に関する会計上の論点の重要性は低いと考えられる。

 ポイントの会計処理も、最近の小売業では重要な論点の一つとなる。販売時にポイントを顧客に付与するケースが多くみられるからである。さらに、棚卸資産の評価についても考慮する必要がある。現在は、売価還元法による評価が広く採用されている。IFRS導入時に、この評価方法が認められるかどうかも重要な論点になり得る。

 以下、小売業がIFRSを適用する場合に留意すべき重要な論点の内容と、それが会計処理や企業経営にどのような影響を及ぼすかを解説する。

賃借店舗へのリース会計の適用

 多店舗展開をする小売業がIFRSを適用する場合、もっとも難易度の高いテーマが「不動産リース」である。

 日本のリース会計基準は、基本的にIFRSとの差はない。2007年(平成19年)の改正時に、所有権移転外ファイナンス・リースをオンバランス化したり、不動産リースに関する規定を盛り込んだりすることによって、IFRSと日本の会計基準(日本基準)との主要な差異を解消するコンバージェンス(収斂)を完了している。

 それでも、実務上の考え方には依然として差が生じている可能性がある。賃借不動産がファイナンス・リースに該当するかどうかを判定するうえでの基礎となる「リース期間」に関する考え方に違いが見られるからだ。日本基準では賃借店舗がファイナンス・リースに該当しないとされている場合でも、IFRSではファイナンス・リースとして扱う必要が出てくる可能性がある。