by Gartner
ジャンルカ・トラマセレ リサーチディレクター
足立 祐子 リサーチディレクター

 「グローバルデリバリー」とは、顧客の世界各地の拠点に対し、サービスプロバイダーが世界各国の拠点からアウトソーシングサービスを提供することである。提供元と提供先の両方が多国籍化しているのが特徴だ。これに対して、従来の「グローバルソーシング」は、サービスの提供元が複数の国に分散していることを指した。

 プロバイダーはここ数年、グローバルデリバリーの強化に余念がない。アウトソーシング市場で何が起き、今後何が起きようとしているのか紹介しよう。

 ガートナーの調査によれば、2009年から2010年の不況期に、アウトソーシング価格の引き下げ圧力がピークに達した。値下げと引き換えに、サービスレベルの低下やグローバルデリバリーを受け入れた顧客企業も多かった。

 今後も、顧客企業はグローバルデリバリーのことを、ITアウトソーシングやビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)の低価格化を実現する手段とみなし続けるだろう。プロバイダーは、グローバルデリバリーが単なるコスト削減の手段だと認識されることに危機感を抱いている。しかし、この傾向は続きそうだ。

 グローバルデリバリーは当初、オフショア開発やBPOから始まった。現在は、顧客企業の情報システムを外部から管理する「リモート・インフラストラクチャー・マネジメント(RIM)サービス」が急速に伸びている。

 サーバーやネットワークといったITインフラの管理業務は、労働集約型である。顧客企業は、労働コストの安い国から提供されるRIMサービスを採用することで、ITインフラ管理コストを大幅に削減できる。プロバイダーも、管理サービスの利益率向上を目指して、RIMサービスのグローバルデリバリーを強化している。

 グローバルデリバリーのハブ(中心)としてのインドの優位性は、しばらく揺るがない。インドのトップ企業は、アウトソーシング市場におけるシェアを拡大しており、インド企業とそれ以外の企業との差は開く一方だ。今後は、この格差を埋めるため、または広げるために、アウトソーシング企業の買収や統合が盛んになる。

 かつて、グローバルデリバリーを採用することで、顧客企業のサービス管理が混乱することが危惧されていた。インフラ市場の成熟度は、国によって大きく異なる。サービス提供元や提供先の国が異なることで、サービス水準がまちまちになったり、国によってサービスを受けられなかったりする恐れがあった。

 この問題は徐々に解消しつつある。各国で通信やITのインフラが整備され、サービス提供基盤となるデータセンターの集約と仮想化が進んだ。その結果、大手プロバイダーは世界諸地域を仮想的に一つの提供基盤でカバーできるようになった。グローバルデリバリーが、顧客企業に混乱をもたらす可能性は低下している。

 グローバルデリバリーは、プロバイダーにとって収益性の向上に欠かせないが、同時にアウトソーシングサービスの減収をもたらす。既存契約がグローバルデリバリーに移行することで、デリバリーの最適化や合理化が行われるためだ。グローバルデリバリーの普及は、世界のアウトソーシング市場の売上高成長率を鈍化させるとガートナーは予測している。