写真●鴻海精密工業の生産管理システムなどを手掛けた、ITコンサルタントの蔡政宏氏
写真●鴻海精密工業の生産管理システムなどを手掛けた、ITコンサルタントの蔡政宏氏

 アップル、ソニー、ヒューレット・パッカード──。世界の名だたるPC/電子機器メーカーから、製品の製造を請け負う企業がある。世界最大のEMS(電子機器の受託製造サービス)企業、鴻海精密工業だ。日本でもフォックスコンのブランド名で知られる。

 同社の2009年12月期の売上高は1兆9592億台湾ドル(5兆3876億円)、従業員数は連結で60万人を超える巨大企業だ。しかしその内情やIT戦略は、あまり知られていない。

 本誌は鴻海の内情に詳しいITコンサルタント蔡政宏氏に、同社のIT戦略について聞いた(写真)。蔡氏は鴻海のほか台湾エイサ ーや米フォード・モーターなどの企業で情報システム部門を歴任し、生産管理システムなどの構築を手掛けた経験の持ち主である。

SAPと地元製品を併用

 同社が本体の基幹システムの開発に使っているのは、独SAP製ERPパッケージだ。導入方法は、いわゆるビッグバン方式。会計、生産管理、調達管理など、「必要なモジュールを一括購入して、できる限り安く調達する。カスタマイズは最小限にして、スピード最優先で導入する」(蔡氏)。

 同社のIT戦略を支えるのは、強力な情報システム部門だ。人数は本体だけで1500人。このほか、SAP専門のコンサルタントを数百人規模で抱える。さらに、ビジネスユニットごとにも情報システム部員がいるため、「全体ではさらに大所帯になる」(蔡氏)。

図●世界最大のEMS(電子機器の受託製造サービス)企業である鴻海精密工業のIT戦略およびシステム部門の特徴
図●世界最大のEMS(電子機器の受託製造サービス)企業である鴻海精密工業のIT戦略およびシステム部門の特徴
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 鴻海における基幹システムの開発や運用は、すべて自前だ()。本体の基幹システムにはSAP製品を使う一方で、工場のシステムには「TIPTOP」という台湾のITベンダーが開発・販売するERPパッケージを利用する。新たに製造を受託した製品の工場を建設する際には、SAP製品ではなく、このTIPTOP製品を使う。

 ここで特徴的なのは、鴻海がTIPTOPから製品を購入した際、「ソースコードを含めて買い取り、それらを自由にカスタマイズできる契約を結んでいる」(蔡氏)ことだ。鴻海はこのTIPTOP製品を使い、「鴻海版ERP」を開発した。新規の工場では巨大な情報システム部門を動員し、この鴻海版ERPを基に生産管理システムなどを一気に作り上げる。