なぜ、せっかく避難してきた方々が避難場所をたらい回しにされなければならないのか。それでも粛々とバスに乗って移動する被災者の映像を見て怒りすら覚えた国民は多いだろう。結局、これだけの広域災害を想定した対策や都市構想が具体化されていなかったとしかいいようがない。そこで今回は、「箱船」をキーワードに未来都市構想を提言したい。

たらい回しにされた避難者

教訓1 甚大な広域災害では多くの避難者がたらい回しにされる。
教訓2 広域災害では県単位の行政対応に限界が生じる。

 東日本大震災と福島第一原発事故では数十万人の避難者を発生させた。避難所も2000カ所にのぼる。さらに、避難場所の都合で避難所を転々と移動されられる避難者が実に多い。例えば、さいたまスーパーアリーナという避難所としては比較的良い環境に逃れた方々は、そこで開催されるイベントやスポーツのために3月一杯で移動させられた。双葉町から役場ごと避難してきた人々は、同じ埼玉県の加須市の高校跡地に向った。たらい回しにされても粛々とそれにしたがって移動する避難者の方々がどんな思いでおられるのかと思うと胸が熱くなる。

 旧約聖書のノアの箱舟ではノアとその家族、多くの動植物が箱舟に乗船して大洪水を生き延び、新たな世界を築いていったが、そのような大災害時に多くの避難者を収容できる箱舟は結局どこにもなかったのである。

 ここまでの話は、ICTが貢献できる領域はせいぜい避難所にいる方々の情報をインターネットで公開するぐらいしかなく、実際、既にそれは行われている。

 広大な避難所をあらかじめ用意するのは行政の責任だが、ここまで甚大な災害では県レベルの計画では限界だろう。道州制の単位、または国レベルで安全な地域に未来都市をつくるという提言(未来都市モデルプロジェクト)は、実は経団連から出ていたのだが、これをやっておけばこの不幸なたらい回しは避けられたかもしれない。

 避難者たちがさいたまスーパーアリーナを追い出されたのは、そこが元来避難施設としての機能を第一義としてつくられたものではなかったからだ。最初から避難所機能を最優先にして設計されていて、災害時にはすべてのイベントをキャンセルして避難所として機能し続ける役割の設備であったら、話は全く違っただろう。

 未来都市は、災害時には「地域の箱舟(リージョナル・アーク)」としての機能が求められる。さいたまスーパーアリーナ規模の避難設備を複数用意しておき、宿泊設備や災害時用の食料飲料燃料、医療器材などが備蓄されていて、広域災害時の箱舟として機能し、それを管理する情報システムも備える必要がある。

 もちろん、平常時の未来都市は、多様な電源を備えて省エネが徹底されたスマートシティであり、各々特色を持った周辺地域の産業拠点、物流拠点、医療拠点、文化拠点として機能する。東北地方ほどの広さなら、この「地域の箱舟」は3~4カ所ぐらいは必要だろう。避難者の数は当初30万人以上と言われていたが、他の地域に逃れた方々も多く、現在では十数万であろう。「地域の箱舟」にはそのレベルの収容力が求められる。

 「地域の箱舟」となる未来都市では、ICTの出番となるだろう。エネルギー関連ではスマートグリッド関連システム群、周辺地域を対象とした「広域防災・災害対策システム」、広域医療の拠点としてのEHR基幹データベースを備えた「広域医療基盤システム」、最新の「高度道路交通システム(ITS)」、広域の水道システムを運用・管理する「広域水管理システム」、広域の電子行政を支える「広域行政システム」、そしてクラウドシステムとして構築されるこれらの情報システムを収容する「環境配慮型分散データセンター」。もちろん、通信網は基幹回線網と接続された災害に強いグリッド通信網が必要になる。未来都市の名に相応しい日本の最先端技術を結集した都市が期待されている。