Andriod Application Award 2010-11 Winterの大賞を受賞した「Voice4u」は、ある母親の切実なニーズから生まれたアプリだ。
絵にタッチして意思疎通
Voice4uは、自閉症など言語表現が難しい人々の意思表示をサポートするアプリ。一般に「AAC(拡大・代替コミュニケーション)ツール」と呼ばれる。アプリには、物や事柄、人の行為や感情などを表す約150のアイコンが登録されている。利用者がこれらの絵にタッチすると、そのアイコンが表す言葉が再生され、相手に意思を伝えることができる。
アイコンは50音順に並べられているほか、「きもち」「たべもの」「あいさつ」「おねがい」など11のカテゴリに分類されている。ユーザーが新しい言葉を登録することも可能だ。既存の画像ファイルや、スマートフォンで撮影した写真を使用し、言葉を入力し、スマートフォンに向かってその言葉をしゃべり、カテゴリを選ぶだけで登録完了だ。
従来このような用途には、絵の描かれたカードを多数収めた分厚いバインダーや高価な専用機が使われていた。Voice4uを開発したスペクトラムビジョンズ 創業者でCEOの久保由美氏もそのようなユーザーの一人だった。
ニッチだが切実なニーズ、30カ国にユーザー
久保氏は駐在員の妻として渡米し、アメリカで子供を出産。子供が1歳の時に自閉症と診断される。医師には一生言葉を話せないかもしれない、と言われた。久保氏は子供との意思疎通のため分厚いバインダーを持ち歩いた。その重さは5Kgにも達した。
スマートフォンに出会った時、久保氏は「バインダーがこのスマートフォンの中に入れば、空いた手で子供を抱きしめてあげることができる」と思ったという。
久保氏に協力を申し出たのは、米スタンフォード大学の博士号を2つ持つ技術者の樋口聖氏である。久保氏の要望を樋口氏はiPhone上で形にしていった。Voice4uを多くの人に使ってもらうために久保氏は米国でスペクトラムビジョンズを起業。現在米国や日本など30カ国にユーザーがいるという。
審査委員長を務めた、日本Androidの会 会長の丸山不二夫氏は、表彰式で「ニッチかもしれないが、そのシーンでは非常に切実にそのアプリが求められている。単にたくさんの人が広く浅く使うアプリだけではなく、これからは、本当にそのアプリを必要とする人に届くものもきっと出てくる。それがアプリの発展の1つの大きな柱になる。しかも、そうしたニーズはグローバルで求められているわけで、こうしたアプリも大事なのだということが開発者にメッセージとして伝わってほしい」と語った。