今回の連載で何度か繰り返しているが、情報システム部門の使命は、ビジネスに役立つ情報システムを構築し、運用することである。しかし、“ビジネスに役立つ”ことにこだわりすぎると、自社の実力以上のシステムを構築しようとして、失敗してしまうことがある。自社の能力、リソース、資金力などに適した情報システムを企画することが必要である。

 この「ビジネスに役立つ」と「身の丈にあったシステムを作る」ということのバランスを保つことが難しい。ほとんどの会社で、一度はシステム開発プロジェクトの失敗を経験しているのではないだろうか。その大きな原因として、バランスの取れた企画がなされていないことがある。

 例えば、既にメインフレームやオフコンといった古いIT基盤でシステムを構築している会社で、再構築をする場合、以下のような理由で、特に難易度が増す。

(1)既にシステムが存在しているため、事業部門から見れば、再構築することは難しいことではないと考える。要するに油断がある。
(2)既存のシステムが稼働しているため、同様の品質で稼働させる必要がある。しかも、既存のデータも限られた時間で移行しなければならない。
(3)事業部門からは、“現行と同等の機能を保障してほしい”と要望されるが、古いシステムであると、仕様書やソースコードも整備されておらず、現行の要件が正確に把握できない。
(4)新たにシステムを再構築するとき、今までの機能を保障すると共に、必ず“ビジネスに役立てる”ことを要求される。そのため、BPR(Business Process Reengineering)や新機能追加などを検討する作業が追加される。

 この例が示すように、現実にシステムを再構築するためには、じっくり検討して、多くの課題を乗り越えるための構想・企画、そしてそれに続いて、良く練られたプロジェクト計画を策定しなければならなくなる。そのような正しいプロジェクト計画が作られて初めてシステム開発プロジェクトも順調に進むこととなる。

 最後に、正しいプロジェクトを作るための、構想・企画フェーズのポイントを以下に示す。

(1)要求を引き出し、ビジネスの戦略と結びつける
 ビジネスの戦略やニーズ、及び現状の課題を、スポンサー、事業部門の利用者、現行システムの運用者などのステークホルダーから引き出し、要求として整理する。引き出すことが難しい。ステークホルダーに対して、あの手この手を使って、熱意をもって聞き出すことだ。

(2)創造性を働かせ、本当に価値のあるものを生み出す
 聞き出した情報を分析、整理して、ビジネスに役立つ要求を見つけること。そのためには創造力が必要となる。

(3)タイムボックスで計画し、スピード感を持って結論を出す
 企画するシステムの規模に応じて検討する期間が制限される。その中で良い企画書を作ることを考える。

(4)役者をそろえ、“考えるチーム”を作る
 対象とする業務・システムを企画するために最も適したメンバー(業務精通者、ビジネスアナリスト、ITアーキテクトなど)をそろえる。

(5)企画の実現性を検証する
 IT技術、体制、スケジュール、コストなど総合的に勘案して、バランスの良い企画であることを説明できるようにする。

(6)企画の内容をステークホルダーと真に共有する。
 スポンサーを含めた主要なステークホルダーに対して、納得のいく説明をして、理解を得る。そして、一つのチームになって、この企画を実現するという雰囲気、環境を作る。

能登原 伸二(のとはら しんじ)
アイ・ティ・イノベーション 取締役 兼 専務執行役員
能登原 伸二(のとはら しんじ)
株式会社ジャパンエナジー(現 JX日鉱日石エネルギー株式会社)の情報システム部門において、長年、情報システムの企画、開発、運用までの幅広い業務に携わり、ITによる業務改革、収益向上を支援してきた。現在は、プロジェクト管理標準導入、PMOの運営、及びITプロジェクトにおけるプロジェクト管理支援コンサルティングを幅広く手がける。日経SYSTEMSにおいて「のとはら先生」シリーズを連載し、大好評につき「プロジェクトマネジメント現場マニュアル」を出版。PMP。名古屋工業大学 非常勤講師。