2009年7月に有料サービスを始めた「UQ WiMAX」は、2010年度末の契約者数が約80万件になった。

 WiMAXサービスはUQコミュニケーションズが「UQWiMAX」を展開するのと合わせて、仮想移動体通信事業者(MVNO)に回線を卸すことでも契約数を伸ばしている。同社は2011年度末までに契約数を200万件に増やす計画という。現在、全国の人口カバー率は70%の通信エリアも、基地局の増設により着実に拡がってきており、三大都市圏に限ればほとんどの地域で使用可能である。

 本稿でも以前、無線LAN機能を内蔵した対応小型モデムをテストしたが、今回、この春にKDDIが発売したWiMAX搭載スマートフォン「htc EVO WiMAX ISW11HT」を試してみた。本機の通信方式はCDMA 1X WINとWiMAXに対応する。無線LAN/USBテザリング機能も備える。Google社のモバイル向けOS「Android 2.2」を搭載したモデルであり、各種のアプリを導入できる特徴もある。

首都圏では郊外までサービスエリアが拡大している

図1 文京区の室内でデータ通信速度を測定
図1 文京区の室内でデータ通信速度を測定
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 まず、筆者事務所(東京文京区、西側が主要都道に面する南西角部屋、6階のワンルーム)で速度テストを実施した。下り回線速度は、今までの携帯電話機では、経験できなかった速度である3Mbps以上をキープした。上りも同様に2.5Mbps以上を示している(図1)。

 筆者は業務で使用するノートパソコンから、一度に10Mバイト以上ものデータ容量のファイルを送信することがしばしばあり、無線LANのホットスポットでもストレスを感じることが少なくない。本機ではそういうストレスを感じなかった。集合住宅などではコンクリートや鉄筋などが電力を弱める要素だが、今回は部屋のどの付近でもキャリア電力が強かった。

 試しにこの事務所のあるビルの2階、道路面と反対側で南面だけが開口している部屋の窓際で速度テストを実施した。この場合では上り速度が500kbps程度まで落ちたが、それでも、CDMA 1X WINでは得られない速度のブロードバンド環境を確保できた。1階通路では残念ながらWiMAXのキャリア電力が検出できなかったが、ここでは電話そのもののキャリアもぎりぎりで繋がっている場所なので止むを得ないところであろう。

図2 埼玉県所沢市でデータ通信速度を測定
図2 埼玉県所沢市でデータ通信速度を測定
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 一方、筆者の中野区内にある自宅でも試したところ、木造戸建の1階北側道路に面したリビングの窓際でも、十分な速度を確保できることを確認した。前述したモデムタイプのテストは約1年以上前に行ったものだが、このときはこの場所の2階の部屋でないとキャリアを検知できなかった。やはり東京都の都心部など人口密集地域では、順調に置局が進んだことを物語っていると感じる。

 また、埼玉県所沢市でも市内各所でストレスなくWiMAXサービスを利用できた(図2)。所沢駅前では商業ビル1階にある喫茶店内でも窓際近くの席で利用可能であったし、航空公園駅から市役所にかけてもキャリアが途切れることはなかった。また、同駅から直線で1.5km離れた旧住宅公団団地にある集合住宅でも、11階南面の和室で窓際なら上り速度が2Mbpsを超える水準を保った。ただし北側の台所ではキャリアが拾えなかった。やはり基地局に向いた最適の位置が、部屋の向きに左右されることは間違いない。

テザリング機能を十分に活用したい

 本機は、ケータイ本体だけでWiMAX回線に対し、最大で8台のモバイル機器を接続できることが謳われている。「テザリング」と呼ばれる機能である。テザリングで繋がっている機器が快適に動画再生をするのか、といった各種テストを複数パターン、テストしてみた。

 文京区の事務所において、筆者は「プレイステーション 3」(PS3)と本機をテザリングして、PS3のミドルウエアのアップデートやリリースされたばかりのゲームをトライアルするサービスも利用した。

 セキュアーな環境で、ネットワークを通して遠隔地でテレビを見れるロケーションフリーを試してみた。あらかじめソフトをインストールしたノートパソコンを本機にテザリングし、中野区の自宅にあるロケーションフリーからのアナログテレビ映像(約500kbpsでMPEG-4で符号化したQVGA(320×240画素)の簡易動画)を選局・視聴できた。特にストレスを感じるところはなかった。

 そして「iPhone 3G」「GALAXY Tab」「プレイステーション・ポータブル(PSP)」「ノートパソコン」を同時に接続し全てで動画再生を試みた。さすがにYouTubeのHDTV映像が複数混在すると、ブロックノイズが出たりするが、QVGAの簡易動画であれば4台の機器全てで同時に鑑賞することが可能だった。

図3 radikoを受信
図3 radikoを受信
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 こういった実験からわかることは、家族でPSPやニンテンドーDSといったポータブルゲームを利用している子供達と、ノートパソコンでWebプラウズを行っている大人などが同時にアクセスしても使用が可能なシーンも多いということだ。

 また、本機のテザリング機能は、ホットスポットなとの無線LANアクセスポイントに対しても、使用が可能という特徴もあることを付け加えておきたい。WiMAXの電波が届かない店舗内では便利な機能だと感じた。

 筆者は本機に「radiko」のアプリをダウンロードして、野外で歩きながら、時には走行するバス内でヘッドセットを用い聴取したが、都心であればほぼ途切れずに聴くことができた(図3)。それだけの回線品質を、安定的に維持できるているということだろう。なお、実験時(3月下旬)には、東日本大震災への期間限定による緊急対応により、関西や運用が開始され始めた名古屋地区の局も聴くことができた。

 最後に注意して欲しい点は、バッテリーである。WiMAX利用環境下では、連続で2時間程度の使用に留めたいということである。


佐藤 和俊(さとう かずとし)
放送アナリスト
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。