インターネットを通じた個人投資家による株式売買は一般的になった。株式だけでなく、外国為替証拠金取引(FX)でも、“ミセス・ワタナベ“と言われるように、個人投資家によるネット取引が人気を呼んでいる。日本ユニシスは、ここ数年で急拡大を続けているFX市場向けのネット取引システムをSaaS事業「TRADEBASE for FX」として立ち上げた。(ITpro編集部)

画面●TRADEBASE for FX
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 事業計画にあたり、まず市場にはどのような顧客が存在し、どのような機能が求められているか、市場環境をリサーチするところから始めました。顧客の業種や特性ごとに求められる要件は異なりますし、競合他社がどのようなサービスを提供しているかの整理も必要でした。アウトソーシングサービスは長期にわたって継続的なサービスを提供する責任が求められるので、長期的な変化に対応していくことも求められます。

 担当者の間で整理した要件を、限られた予算の中でどこまでシステムに盛り込めるか。機能面だけではなく、金融基幹系システムとして止まらないシステムをSaaSとして実現するため考慮すべきポイントはどこか。今後予想される制度変更などを見込んだ柔軟な設計にできるか---。営業・企画・SEメンバーそれぞれの立場から、入念に検討しました。

 プリセールスの段階で、既に顧客から提案依頼を受けていたにもかかわらず、社内での検討とブレインストーミングには2カ月ほど要してしまい、提案が大幅に遅れるといった事態が起きました。社内での投資案件の審査は厳しく、原価の明細にまでブレークダウンして事業採算を立てることが要求されます。また将来起こりうる変動要素、例えばサーバー基盤の増設やサポート停止対応、制度変更など、想定しうるリスクをどこまで計画に盛り込めるか、採算計画を最終的に仕上げていくまで社内で何度も練り直したのです。これにより提案が遅れ、顧客に迷惑をかけましたが、今となってはこの期間と手間は決して無駄ではなかったと感じています。サービスの骨格作りとして関係者の認識をより深くすることにもつながったからです。

 サービスの骨格作りの次は、サービスの具体的な形作りの作業に入ります。サービスには形がありません。その中身が曖昧だと、後にそのリスクはベンダーに跳ね返ってきます。あれもこれもすべてがベンダーの責任となって、サービス開始後にどんどんコストが膨らんでいけば、事業として破綻してしまいます。

 曖昧さをできるだけ無くすために、サービス仕様書を策定し、一つ一つ明文化する作業に着手しました。まずはサービスを構成するサーバー基盤、データセンター、ネットワークなどのインフラ、業務アプリケーションの機能、そしてシステム運用や運営方法、サービスマネジメントの体制まで、サービスを構成するすべてのリソースを一覧にまとめ、顧客にどこまでのサービスレベルを提供できるかを2~3カ月かけて整理し、社内関係部門の評価レビューを受けて最終的な仕様書に作り上げたのです。

 とりわけ性能要件を仕様として明文化できるかについては、慎重に考えました。24時間稼働する金融システムでは、想定される要件が複雑です。日本ユニシスはこれまでSI(システムインテグレーション)で同様のシステムを開発してきた実績がありましたが、SaaSはSIと違ってベンダー側に長期的な責任が発生します。性能要件をSLAとして保証することが大きなリスクとなるのです。

 結論としては、性能要件を取引システムに最も重要な「約定処理」に絞り、SLO(Objective=目標値)として明示することにしました。SLOであればベンダーに責任は生じるものの、保証することに比べれば過剰なリスクは避けられます。

 対象のシステムが全く実績のない未知のものであったなら、このサービス仕様の作成にはさらに多大な時間と手間を要したと思います。SaaS化にあたっては、ベンダーとしても顧客と同等以上の業務ノウハウや知見が必要とされると感じた場面です。