まず前回からの続きとして、MDMアプローチのStep6を説明する。

 Step6はMDMアプローチの最終段階であり、稼働後のマスターデータの品質維持・向上がメーンのタスクとなる。もっとも、これまでの連載で申し上げてきたとおり、プロジェクトの成否はStep4までで既に決まっている(図1)。

図1●Step6 マスターデータの品質維持・向上のために
図1●Step6 マスターデータの品質維持・向上のために

 Step6は、Step5までのMDMアプローチがどうだったのかを確認する場でもある。「目的・ルール・組織・業務プロセスといったものが有効に機能しているか?」が、マスターデータの品質に表れてくる。

マスターデータが汚れていくのはやむを得ないこと

 Step6について、解説しておきたいことは1つだ。「マスターデータが運用につれて汚れていくのは、人間が年をとるのと一緒で、やむを得ない」ということである(図2)。運用するなかでマスターデータがきれいになっていくことはない。「分かっちゃいるけど名寄せできない」データがあるからだ。

図2●分かっちゃいるけど寄せられない
図2●分かっちゃいるけど寄せられない
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 例えば、同じ原料について2つの原料コードがあるとしよう。 システム上で誰がどう見ても同じ原料なので、1つのコードへ名寄せできるはずだ。

 問題なのはそこにこんな業務ルールがあるケースだ。

【こんな業務ルールがマスターデータを汚す】
  • 原料には社内で定める品質検査基準があり、その基準を満たして初めて同じものとして認定できる
  • 2つの原料は、別部門のシステムを統合したことにより発生した重複原料で、名寄せする側の品質検査基準を満たさない限り、1つへ名寄せできない
  • 品質検査は耐久試験なども含めて約3カ月かかる

 こういったルールを考慮すると、最低でも3カ月間は「分かっちゃいるけど名寄せできない」状態となる。ましてや原料の品質基準自体が部門間で異なっていた場合は、その基準の整合を取る作業から始まるため、もっと時間がかかる。

 こうした事情で汚れがちなマスターデータの品質を維持するためには、業務ルールの変更を伴う、粘り強い中長期的な対応が必要だ。

改めて全体のストーリーを振り返る

 最終回ということで、約6カ月にわたった本連載を振り返らせていただく。4つのメッセージから全体のストーリーを思い出してほしい

(1) マスターデータ管理者こそが企業経営の中核を担う(第1回)

 マスターデータ管理は、マスターデータの背景にある業務から経営管理まで幅広い知識・経験が求められる、企業経営の中核を担うべきポジションである。

(2) MDMで失敗する三つの症候群(第2回

 プロジェクトの佳境で陥りがちな三つの症候群にご注意。

【とにかく突撃したい症候群】
プロジェクトの目的がシステム導入へとすり替わってしまう。

【美しく気持ちいいのが好き!症候群】
全てのマスターデータを一元管理したくなる。

【コスト換算したい症候群】
MDMの効果をとにかくコスト換算したくなってしまう。

(3) マスターデータ管理には“愛”が必要(第3回第4回

 MDMアプローチの成功を握るステップ、「コード・マスターの定義」「マスター管理組織」「マスター運用プロセス」へ、「Think Big、Do Small」をスローガンとして段階的かつ長期的視点で取り組む。

 その取り組みで重要なのは、「愛」を持つ人の存在である。

(4)パッケージ選定の「かきくけこ」(第5回

 料理の「さしすせそ」と同様にMDMの「かきくけこ」を基準として安くておいしいパッケージを選ぶ。