中国のネット業界ではどのようなブランドが強いか――。多くの日本企業が進出を試みる中国だが、その生活事情やビジネス事情は意外なほど伝わってこない。ICT・ネット事情も例外ではない。このコラムでは、日経BPコンサルティングが実施した中国市場における初のブランド総合評価調査「ブランド・チャイナ2011」結果を基に、中国のIT・ネット用語を中国の風習・事情を交えて解説する。日本とは違った中国のネット事情が見えてくるはずだ。今回は第1弾として、ソーシャルメディアを取り上げる。
さて、いきなりクイズのようで恐縮だが、ある中国のソーシャルネットワークサービス(SNS)で、クラスメートあてに下記メッセージを送ろうとした。ところが、いざ送ろうとすると、「使ってはいけない文字があります」とエラーが表示され、ちっとも送信できない。さて、使ってはいけない文字とはどれのことか、おわかりだろうか。
「どうも、銭愛麗です(^O^)/。日本にきて17年、クラスのみなさんとすっかりご無沙汰をしてしまいました。先日張さんと連絡が取れて、この同窓会ネットワークを知りました。さっそく登録させていただき、再び同窓会組織への加入ができました。私のメールアドレスはxxx@xxx.xx.xxです。気軽にご連絡ください~」。
昨年は私が大学を卒業してからちょうど20年め。中国全国および海外(シンガポールやカナダが多い)で活躍しているクラスメートが、この大きな節目を祝うために母校の上海交通大学に集まり、大いに盛り上がった(らしい)。親友の張さんの話によると、欠席かつ行方不明なのは私一人だけだったそうだ。日本は近いようで遠い国だ、と冗談を言いながらも、申し訳なく思っている。
その張さんから先日、「校友録(http://class.chinaren.com/)」の存在を知らされたときは、心から喜んだ。早速アクセスし、面倒な登録手続きを終えたところで、最初のクイズのシーンとなった。ようやく旧友とのつながりを取り戻せると思いきや、最後の一歩が進まない。
こうみえても、私は会社の情報システム部門に12年も在籍していたのだ。UNIXもC言語も少々かじったことがあり、おおよそ“犯人”の見当をつけられるとの自負もある。それでも今回は、ちょっとばっかり悩まされた。みなさんは答えがおかわりだそうか。
中国独自の「社交網」
ところで、私が悩まされたこのSNS、中国語ではなんと呼ぶかご存じだろうか。
「ソーシャル」の中国語は「社会(シェホェイ」で、「ネットワーク」は「網絡(ワンロウ)」である。「社会交流網絡」は、略して「社交網(シェジャオワン)」といい、「ソーシャルネットワーク」のことだ。似たような言葉に「社区(シェチュー)」があるが、「コミュニティ」という意味合いが強い。
中国では近年、ソーシャルネットワークサービス(SNS)が急速に広がり始めた。「ブランド・チャイナ2011」の調査対象にも、ネットサービスの企業ブランドが多数ノミネートされている。
「ブランド・チャイナ」は、中国市場における企業ブランド力評価調査のことである。調査は北京および上海在住のビジネスパーソン約2万人に対し、企業ブランドそのものの認知度と、「人材が優れている」「品質・技術が優れている」など25のイメージ項目、計26項目について尋ねた。集計は北京と上海で別々に行った。
表1は「ブランド・チャイナ2011」の結果から、SNS分野における中国および世界の企業ブランドの認知度スコアをピックアップしたものだ。ご覧のように、「QQ(空間)」という企業ブランドに関しては、被調査者10人中9人近くが認知しているのに対し、「ツイッター(Twitter)」に関しては10人中3人弱にとどまっている。認知度は中国独自のサービスのほうが圧倒的に高いのだ。
北京 | 上海 | |||
---|---|---|---|---|
認知度(%) | ブランド名 | 認知度(%) | ブランド名 | |
ソーシャルネットワークサービス | 86.7 | QQ(空間) | 90.9 | QQ(空間) |
81.0 | 開心網(kaixin001.com) | 83.0 | 開心網(kaixin001.com) | |
68.8 | 人人網(reren.com) | 66.5 | 人人網(renren.com) | |
52.6 | 52.5 | |||
42.9 | YouTube | 48.5 | YouTube | |
32.9 | 37.0 |
「QQ(空間)」ではニックネームで登録するユーザーが多く、日本でいうと、「ミクシィ(mixi)」のようなイメージである。一方、「開心網(kaixin001.com)」も「人人網(renren.com)」も実名登録制を採用していて、審査がかなりきびしいらしい。このうち「人人網(renren.com)」は米国の「Facebook」とよく似ている。
登録会員数でも、「QQ(空間)」は1番である。登録ユーザー数は4億、アクティブユーザー数は1億を超える。2番手は「人人網(renren.com)」である。「開心網(kaixin001.com)」はオンラインゲームを中心としたサービスで数年前は人気だったが、最近「新浪微博(中国版ツイッター)」の台頭により、ユーザー数が急速に減少し始めたと言われている。
広いようで狭い中国の「社交網」
「それじゃ、私もユーザー数の一番多い「QQ(空間)」を使ってみよう」。普通ならそう思うのだろうが、実はそう簡単にはいかない。中国独自のサービスのSNSには、利用者層や利用目的によって細かく分けているものが多いからだ。
例えば「QQ(空間)」のユーザーには現役学生が多い。「人人網(renren.com)」も「開心網(kaixin001.com)」も、学生や大都市のホワイトカラーを対象としたサービスである。中小都市あるいは農村部出身のユーザーは、「51.com」というSNSを利用するのが一般的。「51.com」には「同郷(同じ出身地の人)を探す」など、出稼ぎ労働者には親切な機能が豊富であるからだ。ほかに、同窓生検索専用の「校友録」や、小学生以下のお子さんとその保護者が集まる「Taomee」といったサービスもある。とにかく、中国のSNSを利用する場合は、自分の「身の丈に合った」サービスを選ばないと、友人がまったく見つからない。それどころかヒンシュクを買うこともありうるので、事前調査が必要である。
利用する際にもう一つ気をつけなければならないのは、使用禁止文字のことである。冒頭のメッセージの中の“犯人”がそれだ。具体的には、一体どれだったのか。
「メタキャラクターだろう」と考えたあなた、システム管理者としては合格だが、そう単純にはいかないのが中国だ。実は、答えは「組織」という単語だった(前述のメッセージを中国語にしてもその文字は変わらない、写真1)。中国語では組織というと、「党組織」のように「ある共通の目的を実現するために、結成したグループや団体」を指すことが多い。中国は、政府の許可を得ていないニュースの掲載や、掲示板やチャットなどでの反政府発言など、禁止事項が沢山ある。「組織」はその一例に過ぎない。

警告を出して知らせてくれるのはまだ親切なほうである。「QQ(空間)」ユーザーのAさん(上海在住、高校生)のように、「メールは届いたけど、中に空白や意味不明の記号があって、わけがわからない」といった経験があるという。送信者(学校の友人)に確認してみたら、「高利(貸)」や「群衆」が自動的に置き換えられたのだったという。日本では考えられないことかもしれないが、これが中国のICT/ネット事情の一面である。