本連載の第1回と第2回では、VOC(Voice of Customer=顧客の声)の活用を念頭に、大量データの分析法を述べた。第3回と第4回は予兆、すなわち要注意な数件の少数意見の発見方法とこれを用いた予兆監視マネジメントに着目して、解説したい。

 2010年3月、米議会公聴会の様子をテレビで見た日本のビジネスパーソンは多かっただろう。米議会から詰問されるトヨタ自動車社長の姿に、「なぜここまで責められねばならないのか?米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)のホームページに投稿された不具合リポートの中に、僅かな欠陥の可能性が示されただけなのに」と疑問を抱いた人は少なくなかったはずだ。

 公聴会で責める立場の人がすることは単純だ。1つでも疑わしい事例を見つけて、「これと類似した例は他にもあったはずだ。どう対応したのか?」と指摘するだけである。

 一方、指摘されたトヨタは、米運輸省の過去10年にわたる80万件の全てのデータを分析したうえで、回答しなければならないという、圧倒的に不利な状況で答弁を強いられた。

 この事件では、「フロアマット」と「電子制御システム」の2つの論点があった。公聴会ではもっぱら電子制御システムの安全性に疑問が投げかけられ、トヨタのブランドが大きく揺らいだ。

 その後、米運輸省が米航空宇宙局(NASA)の協力を得て調査を行った結果、米政府は、2011年2月になって「制御システムに問題なし」と結論を出し、本事件は収束した。

 政治的な意図がしばしば見え隠れもしたものの、この事件はWeb社会がB to C(企業対個人)ビジネスにもたらす新たなリスクを見せつけた。「B to Cビジネスの三重苦」と呼ぶべきものだ。

 その3つとは(1)予測不能な振る舞いをする顧客の出現、(2)ネット上の口コミの影響力、(3)製品の高機能化に伴う品質管理の難易度上昇――である()。

図●B to Cビジネスの三重苦
図●B to Cビジネスの三重苦
出所:クオリカ

 (1)の顧客に関するリスクは、製品をグローバル市場に売れば売るほど増加する。これに対処するためには、「膨大な顧客の声や製品情報から、まだ数件のうちに不具合を発見し対策する」「想像もしなかった使い方(故意ではない)やわがままな期待を寄せる顧客も一部に出現してくる」という課題を解決しなければならない。

 (2)の口コミについては、一部の先鋭化した批判が、一気にマジョリティとなるリスクが増している。ソーシャルメディアなどでの口コミ情報は、マスメディア広告や、時にはマスコミ報道をも上回る影響力を持ち、顧客の心変わりが早くなりつつある。しかも、顧客の期待は際限なく進化するものなので、これを上回る品質・サービスを提供し続けることが企業に求められている。

 (3)の品質管理は、何らかの不良や欠陥を持ったままの制御システムを市場に出してしまうリスクである。機能の複雑化に伴って、システムの不完全さも増大しているうえ、全ての可能性を考慮して出荷前にテストすることはもはやできない。しかも、自動車などの工業製品においてさえ、ソフトウエアの比重が増大しており、ソフトウエアにバグはつきものだ。

 また、「ブレーキの効きが良い・悪い」といった利用者の感覚と、数値とのズレを100%解消することも困難である。人間の感性はまだ解明の途上にあり、緊急時のブレーキなどの挙動に対応する安全システムの開発は、これからというのが実態だろう。