写真9●IBM大連センター内にあるヤマト運輸のBPOルーム
写真9●IBM大連センター内にあるヤマト運輸のBPOルーム
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 BPOの狙いの三つめは人的リソース不足の解消である。IBMのBPOサービスを利用する花王やヤマト運輸、ジェンパクトに間接業務全般を任せる光通信グループは、本業に直接関係のある業務に従業員を再配置する目的で、大連の拠点を活用する(写真9)。

 花王はBPO検討時、J-SOX(内部統制報告制度)対応に経理システムの刷新が重なっていた。「仕事が明らかに増える中、年間120万件の経理伝票をどう処理するのかが目の前の課題だった」と三田慎一取締役執行役員会計財務部門統括は当時を振り返る。花王がIBMを交えて検討した結果は「仕事のやり方を変えてマンパワーを創出すること」だった。業務の標準化を進め、2009年6月から大連のIBMセンターのBPOを利用し始めた。

 ヤマト運輸は約4万人のセールスドライバーから届く月間110万件の伝票処理を集中化した結果、同業務のプロセスに社外に委託できる部分があることが見えてきた。「手さばきの早い中国のオペレーターに任せれば、伝票を集中作業する事務センターの2000人の負荷を減らせる。そうすれば事務センターの人員を店舗に配置できるので、会社として生産性が上げられるのではないか」。福澤裕二財務部内部統制課課長はこう考え、BPOサービスの検討を始めた。

 福澤課長は会計士を携えて大連を訪問し、IBMが提供するBPOサービスの現場を見て回った。「予想以上に処理が正確で速かった」(同)。内部統制を進めてきた立場から、経理処理をマニュアル通りに進める点も評価できたという。ヤマト運輸はIBMのBPOサービスを利用することを決め、2009年10月から伝票処理の業務プロセスのうち六つの処理を大連に移管した。

 光通信グループは事業拡大に伴い、間接業務の人員が不足していた。「もともと営業に力を入れてきた経緯があり、相対的に総務や人事、経理といった管理業務は営業の拡大に追いつけていなかった」。光通信グループで最初に大連のBPOを使い始めたハローコミュニケーションズの社長であり、光通信の常務執行役員を務める豊田繁太郎氏はこう述べる。

 豊田氏は以前から管理業務をアウトソーシングして、その人員は営業の事務サポートに回ってもらいたいというアイデアを温めていたという。GEで大連へのBPOを進めてきた経歴を持つジェンパクト・ジャパンの前川充留日本担当副会長と2009年に出会い、「ホワイトカラーの生産性向上にBPOは欠かせない」と意気投合。このアイデアを2010年4月から実体化させた。

 BPOサービスを採用した結果、花王は220人、ヤマト運輸は600人の人材を他部門に再配置できた。光通信グループは2015年までに、管理業務を担う要員のうち500人を本業の営業部門に異動させる。

 各社は「BPOサービスを利用が人員整理につながったということは一切ない」と口をそろえる。「日本人の仕事が奪われるのではないかといううわさが立ったのは事実だが、そうした考えは最初から無かったので驚いた。不安が不安を呼んだのだろう。手分けして全国の10箇所の事務センターを回り、センター長に『BPOを利用する件で一人も辞めさせないでください』とお願いして回った」(ヤマト運輸の福澤課長)。「中国BPOが国内雇用を脅かすと聞くこともあるが、そう考えるのは早急だ。例えば人事サービスでは国内市場6.7兆円のうち、中国BPOサービスを利用しているのは130億円しかない。利用率はわずか0.2%だ」。ジェンパクト・ジャパンの前川副会長は自身の分析結果をこう話す。

 「日本は人口の減少が続く。リソース確保の意味からも、中国との連携は欠かせない」。光通信の豊田常務執行役員はこう考え、今後グループでの中国BPOサービスの利用を拡大する。花王やヤマト運輸も同様にBPO利用の拡大を計画している。

 ここまで見てきたようにBPOの威力はコスト削減だけにとどまらない。大連の人材と労働力を自社のバックオフィス業務に生かすことは、日本企業の競争力強化に直結する。