エレクトロニクス業界にとって積年の大テーマである「インターネットとテレビの融合」。この実現に向けた動きが米欧を中心に広がっている(関連の動向をまとめた『日経エレクトロニクス』の12月13日号特集「テレビ 最後の挑戦」はこちら)。インターネット関連企業,ベンチャー企業も入り乱れ,主導権を奪い合う争いが本格化する中,テレビで何が起きているのか。その取り組みを追う。
 第3回は,ネット動画の台頭や携帯情報端末の普及で,主役の座を追われるテレビの危機…。
(第1回「動揺するハリウッド,台頭する低価格VOD」はこちら
(第2回「進化するテレビ,草の根が開く新メディア」はこちら

 米国の映像コンテンツ業界が眉をひそめるインターネットの動画配信サービスに関する訴訟が,2010年9月に始まった。問題視されているのは,米国シアトルに居を構えるベンチャー企業のivi社が同月に始めたサービスである。放送コンテンツをインターネットで再配信する,いわゆるIP再送信サービスだ。

IP再送信の議論は再沸騰するか。写真はivi社のパソコン用ソフトウエア

 利用料金は月額4.99米ドル。登録ユーザーは,パソコンにインストールした専用ソフトウエアで放送チャンネルを選び,配信されたテレビ番組を自由に視聴できる。巻き戻しや早送りなどの操作も可能だ。ただ,ivi社と放送局や番組制作者の間に,今のところ契約関係はない。サービス開始後,ABCとNBC,CBSの米3大ネットワーク,米大リーグ(MLB)などは,ivi社のサービスが著作権を侵害していると同社にサービスの停止を通告した。

 それを受けて,ivi社は大手放送局などを相手取り,「自社のサービスが著作権侵害ではない」ことを争う訴訟をワシントン州西地区の連邦地方裁判所に提起。その後,大手放送局もニューヨーク州南地区の連邦地裁で反訴した。

映像コンテンツを取り巻く環境が変わった

 ivi社のサービスでは,ソフトウエアCAS(conditional access system)技術を使って視聴制限をしている。これを理由に「ケーブルテレビ(CATV)と同様に再送信する法律上の権利を持つ」というのが同社の主張である。「当社は再送信の対価を放送局に支払う準備がある」と,ivi社 CEOのTodd Weaver氏は話す。

 だが,放送局側からすれば,IP再送信サービスを勝手に始めることを簡単には認められない。CATV事業者などから受け取る放映ライセンスのビジネスモデルに大きな影響が出る可能性が高いからだ。一歩も譲れない戦いである。

 過去の判例から見ると,ivi社には不利な状況との見方が強い。ただし,仮に放送局側が敗れることがあれば,同様のサービスが雨後のたけのこのように現れる可能性がある。この影響はパソコン向けのサービスだけにはとどまりそうもない。インターネット接続機能を備えた薄型テレビは当たり前になりつつある。“勝手IP再送信”を受信できる機能が薄型テレビに搭載されると,CATVや衛星放送の立場は磐石ではなくなる。関係者は,訴訟の行方を固唾を呑んで見守っている状況だ。

 こうした騒動が象徴するのは,視聴者が映像コンテンツを見る環境の大きな変化である。