システム開発の現場には、システム開発標準やプロジェクトマネジメント標準など、様々な標準があるだろう。プロジェクトでは、それらの標準に沿った運営が求められる。しかし、実際のところ、それらの標準は本当に「現場のため」になっているのか。疑問に思うことが多々ある。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ 取締役 PMP


 システム開発において、「標準化」と聞いて皆さんはどのようなイメージを思い浮かべるだろうか。「システム開発をを効率よく進めるために大変有効なもの」と答える人もいれば、「実利のない、面倒くさい手続きばかりで生産性を下げるもの」「品質を確保するために必要なのは理解できるが、ここまでやるべきか、ふに落ちない」など様々な意見があると思います。一般に、システム開発における標準化のメリット/デメリットを挙げると、以下のような点が挙げられます。

【システム開発における標準化のメリット】
(1)関係者が同じ言葉を用いることにより、コミュニケーションロスが少なくなる
(2)同じ標準を用いて開発したシステムとの比較ができる
(3)標準を改善していくことで、より効率よく高品質なシステムを開発できる
(4)アウトプットとして同じ品質が期待できる
(5)サンプルやテンプレートを利用することで開発プロセスや成果物の検討時間を短縮できる

【システム開発における標準化のデメリット】
(1)標準が絶対的なバイブルとなり、柔軟性がなくなる
(2)「標準に従っていればよい」という心理を生み、改善意欲が失われる
(3)標準どおりに実施した結果、現場の生産性が下がる
(4)利用も何もしない無駄な指標を計測し続ける
(5)プロジェクト固有の習慣や文化、言葉などを標準に合わせるための“翻訳作業”が発生する

 システム開発現場の視点から単純に「標準化」を見た時には、これらのメリットだけを見るとまるで「魔法の杖」のように思えることでしょう。その半面、現実に「標準化」を取り入れたからといって、必ずしもプロジェクトに定着するとは限りませんし、さらに言えば、そのプロジェクトが成功するわけでもありません。

 それは、なぜでしょうか。

同じプロジェクトは存在しない、という自明な前提

 PMBOKでは「プロジェクトとは、独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施する有期性のある業務である」(PMBOK第4版 第1章序論より)と定義されています。つまり、各々のプロジェクトが独自の目的や制約をもっており、全く同じプロジェクトは存在しないということになります。

 客観的に見て、そういう定型でないプロジェクトに標準を無理やり当てはめ、「標準どおりにすべてやりなさい」と押し付けも、うまくいくものではありません。一生懸命に標準を作っても、あまり適用されなくなってしまう理由の一つがそこにあります。本来、標準をそのまま適用したくても、適用できないものなのです。