これまでに情報爆発(=データ急増)をキーワードとしてストレージ・システムについて考えてきた。第11回は技術論から離れて、ストレージビジネスを取り巻く状況について解説する。

 内容の一部はすでに弊社ホームページのコラムや、別の媒体でも述べたことを含んでいるが、状況は全く変化していないのであえて再びここに整理しておく次第である。

 ストレージはシステムの中で特異なポジションにある(図1)。以下、これらを詳細に見ていく。この違いを意識している人は意外に少ない。

図1●ストレージがシステム中で特異な存在である理由
図1●ストレージがシステム中で特異な存在である理由

システム管理とはストレージを管理することだ

 ネットワーク装置はデータの経路でしかないし、サーバーはデータの加工場の役割しかない。どちらもデータを利用するときには必要となるが、データは一時的にそこに存在するだけであり、電源を切ってしまえばそこには何も残っていない。

 ストレージだけが常にデータを保持している。この点で、IT装置の中では特別な存在なのである。

 これがいかに重要なことか、一例を挙げよう。物理的なサーバー装置を指して、「これはデータベースサーバーです」、「それはWebサーバーです」と言った場合に、何をもって区別しているだろうか。

 言うまでもなく、そのサーバーでデータベースやWebアプリケーションが動作していることを意味しているはずである。同様に、「Windowsサーバー」や「Linuxサーバー」と呼ぶときには、そのサーバーOSが稼動していることを意味する。

 すなわち、サーバーの役割を決めているのはOSとアプリケーションである。それらはどこからやって来るのかといえば、言うまでもなくハードディスクからである。

 特にSAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)ブートの環境では、OSもアプリケーションもストレージ内に格納されているため、各サーバーの役割を決定するのはストレージ内のブートディスクということになる。

 重要なのはOSとアプリケーションを格納しているストレージなのだ。つまりストレージを管理することは、システム全体を管理することに等しい。ストレージが壊れて使用不能になるか、データが消失するなら、ネットワークやサーバーだけが生きていても意味をなさなくなる。

 このように、ストレージはシステムの根底を支える重要なポジションにある。もっとはっきり言えば、システムの鍵はサーバーやネットワークではなく、ストレージが担っているのだ。

ハードウエアの中で差別化の要素が多い

 これまでも書いてきたように、ストレージはハードウエアでありながらデータ管理機能を持つソフトウエアが豊富に搭載されている。それゆえに、製品ごとに特徴があって差別化を図れる。

 さらに、機能ごとにライセンス費用がかかることがある。これまでに紹介したクローン機能や災害対策機能、重複除外、シンプロビジョニングなど、個別ごとにライセンス費用を積み上げていくと最終的な価格はそれなりに高くなる。

 サーバーはどのベンダーでも同じと見なす人が増えている一方で、ストレージにはこのような差別化要素があり値崩れしにくい。このためにシステムの見積金額の大半はストレージ関連が占めることが珍しくない。

 ただし、ストレージについても最近は価格競争の風潮が強まりつつある。まず買ってもらおうと、値引き率が徐々に高くなる傾向にある。以前「ストレージは増設と囲い込みのビジネス」と述べたように、とにかく売ってしまえば何年かは保守・サービスを含めて継続的なビジネスが存在するからだ。

 顧客側のストレージに関する知識不足も、ストレージが価格競争に陥る一因である。顧客が作成するRFP(提案依頼書)には、メジャーなストレージ製品ならどれでも楽にくぐり抜けられるものが見受けられるからだ。

 RFPでは製品が決まらないので、購買部門の事実上の選定基準は価格の安さ(もしくは値引き率)になってしまう。最初から大きな値引きを期待してサーバーやネットワークなどと一括で1社から購入するときも、ストレージ製品の吟味はなおざりにされがちである。

 本来ならばRFP作成の際に、用途に応じた機能をじっくり検討しなければならない。カタログでは同じように見えても、実装方式による優劣の差が大きい機能もあるからだ。