近鉄ケーブルネットワーク(KCN、本社:奈良県生駒市、代表取締役社長:小西良往氏)、およびこまどりケーブル(本社:奈良県生駒市、代表取締役社長:佐野弘氏)は、市民放送「タウンチャンネル」のサービスを2011年4月1日に開始した。同チャンネルは、デジタル多チャンネル放送の一つとして提供される。

 「タウンチャンネル」は1日24時間、市民放送として利用できる専門チャンネルである。2008年5月に生駒市に限定した放送として始めた。2011年4月1日には、近鉄ケーブルネットワークとこまどりケーブルのデジタル021チャンネルを使い放送することで全県をカバーした。全国初の県下全域をカバーする市民放送局となった。

放送を通じた地域コミュニティ創りを提案

 市民放送について現在は、インターネットを活用する形で取り組みが盛んになっている。一方でケーブルテレビでの市民放送は、インターネットを利用しない高齢者らでもリモコンのボタン操作で簡単に見ることができるなど、テレビならではの利点があり地域に広く情報や話題を伝えることができる。

 地域への情報配信手段として、ケーブルテレビ事業者の多くは、コミュニティチャンネルに力を入れている。KCNも、「KCNファミリーチャンネル」を放送し、地域密着型の情報発信を行ってきた。ただし、コミュニティチャンネルは、KCNから見た地域情報である。これに対して今回のタウンチャンネルは、「市民から見た(市民目線の)地域情報」と位置付ける。同じ地域密着型サービスでも、位置づけや役割が異なると考えている。

 タウンチャンネルは、「テレビは見るから使う時代へ…」をキャッチフレーズに、市民自らが、企画、撮影、編集を行い制作し番組を放送する。IT/エレクトロニクス業界も盛んに「使うテレビ」というが、それはテレビ端末を指すことが多い。ここでは、「テレビ放送」に市民が主体的に参加して使うことを意味する。

 タウンチャンネルは、市民放送の総合チャンネルとなるが、その中核になるのが「021なら県民放送局(市民放送局)」である。市民放送局は、ボランティアスタッフが番組を企画・制作し、市民目線で撮影・編集を行って放送する。市民放送局は市民放送局中心スタッフと、登録市民スタッフで構成する。

 また、市民放送局に所属しなくてもタウンチャンネルの中で、「投稿番組(各団体で番組を持つことができる)」「お知らせ番組(各サークルなどの告知)」「テレビ写真館(写真で放送に参加できる)」「提供番組(県内企業や団体で番組を持つことができる)」「CM・インフォマーシャル」などカテゴリー別に分けた番組枠で情報発信を行うことができる。タウンチャンネルへの投稿および市民放送局への参加は、奈良県内に向けて情報発信したい人であれば誰でも可能である。こうした自由度の高い情報発信方法も特徴の一つという。例えば投稿番組では、NPO法人うぶすな企画による静止画アニメ「大和の風」を放送している。

 なお、放送内容に関するガイドラインとして、KCNおよび市民放送局の放送基準を満たすことを条件とする。放送内容も、市民からの番組は制作前に内容を確認するともに、市民放送局スタッフが毎月上映会を行い、内容を確認する。KCNは、技術・機材などで支援する。番組について、著作権の扱いなど最低限の助言をすることはあるが、企画や内容には口を挟まない。

奈良県全域放送にした理由とは

 タウンチャンネルが生駒市のみでスタートしたのは、当初地域を限定することで情報密度の濃い情報を発信することを検討していたからだ。それが成功すれば他地域にも展開し、奈良県内のエリアを数カ所に分けて展開することなどが想定された。

 しかし、実際に放送を始めてみると、生駒市以外のケーブルテレビ加入者から「生駒市以外でも見れるようにしてほしい」とか、市民放送局のメンバーが取材先から「奈良市でも見れないのかと質問される」など、市外からの要望も多数あったという。住民の生活圏は生駒市に閉じているわけではなく近隣地域も生活圏であり、また近隣の地区でも同様で、ケーブルテレビ局が情報を発信するエリアと住民が生活圏として行動する範囲は一致していないと、この理由を分析した。

 こうしたことを踏まえて、地域を分断して情報発信することが必ずしも情報密度の濃い情報発信方法であるとは言えないし、求められている情報発信方法ではないと判断し、エリアを区切らず県下全域で放送することにしたという。