よく、「決断」と「判断」は違うといわれる。本書はこの二つの違いを明確にして、リーダーとしてゴールを目指す際にそれぞれを「道具」としてどのように使っていくかを述べる。筆者は早稲田大学ラグビー部の主将を務め、2007年度と2008年度には監督として全国大学選手権2連覇を果たした。本書はそこでの失敗と成功を基に書かれている。

 筆者の定義によれば、「判断」は混とんとした日常を整理して現状を把握することで、「決断」は見えないゴールに向かっていく不確かな道筋を明らかにすることである。また両者の違いはいつ実行するかというタイミングや実行した後の状態にもあるとする。すなわち、判断は混乱のなかにいるときに行い、判断を終えた後はものごとはある指標において整理された状態になる。決断は選択肢を前にして迷っているときに行い、決断を終えた後はその選んだゴールや方針に向けて新しい一歩を踏み出して行動を起こす。

 判断は決断の一つの材料であり、判断が甘くなると、決断を間違う。判断のポイントは客観的な情報収集にある。「対象物から離れる」「多様な視点を持つ」といった姿勢を筆者は推奨する。一方、決断のポイントは、何のために決断しようとしているのかという「Why」を常に念頭に置いて考え抜くことだという。何を決断するかという「What」やどのように実現するのかという「How」に集中してしまいがちだが、いずれも「Why」を極めるための手段に過ぎない。

 決断において重要なことは、自分らしく、かつチームらしいこだわりや一貫性を持つことだと筆者は述べる。「らしく」ない決断は実行するのがつらくなるし、「らしく」ないリーダーの言動は説得力を欠く。らしく決断したら、あとはゴールまでの道のりである「ストーリー」を打ち立て、その通りに進むための「シナリオ」を臨機応変に考えていくことが大事と説く。

 本書は戦略思考で盲点になりがちな部分に光を当てた。自分自身の行動を戦略的にしたい人は必読である。

評者:好川 哲人
神戸大学大学院工学研究科卒。技術士。同経営学研究科でMBAを取得。技術経営、プロジェクトマネジメントのコンサルティングを手掛ける。ブログ「ビジネス書の杜」主宰。
判断と決断

判断と決断
中竹 竜二著
東洋経済新報社発行
1680円(税込)