3月11日に発生した東日本大震災の余震は現在も続いている。徐々に頻度が減っているとはいえ、緊急地震速報の独特のアラーム音が鳴り響くことはいまだに多い。緊急地震速報から揺れが到達するまでの間は数秒~十数秒と少しの余裕しかないが、身の回りに気を付けたり、頭部を守るために身構えたりする手助けにはなっている。

iPhone用の緊急地震速報アプリ「ゆれくるコール”for iPhone」の画面
iPhone用の緊急地震速報アプリ「ゆれくるコール”for iPhone」の画面
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 一般の携帯電話では、NTTドコモとauの大部分の機種、ソフトバンクの1機種が緊急地震速報に対応している。「フォンフォン」というアラーム音とメッセージの表示で地震予測を通知する。スマートフォンは一部機種を除くと標準では未対応だが、サードパーティの緊急地震速報アプリがある。iPhoneでは「ゆれくるコール”for iPhone」、Android向けには「なまず速報 β」が定番になっている。

 地震発生以降、緊急地震速報へのニーズは急激に高まった。ゆれくるコール”for iPhoneは、ダウンロード数が地震後の10日間で従来の10倍となる100万超に急増した。その結果、サーバー増強コストが負担になり、無料提供を維持するために支援企業を募集することになった(関連記事:iPhone向け緊急地震速報アプリ運営会社がスポンサー募集)。

 緊急地震速報の的中率が低下しているなどの課題もあるが、緊急地震速報の仕組みを知って「正しく身構える」ことが肝要だ。

速くて小さい揺れから推定

 気象庁は2004年2月に緊急地震速報の試験サービスを開始し、2007年10月1日から正式サービスを開始した(関連記事:「地震で揺れる前に警報」、気象庁が2005年度中に全国展開)。これ以降、放送事業者はテレビやラジオでチャイム音とともに速報を伝えたり、通信事業者一部の携帯電話でアラーム音と特殊なメールを送ったりするようになった。

 なぜ地震発生前に揺れが予測できるのか。地震で発生する「揺れの波」には、伝わるのが速い「P波」(初期微動)と伝わるのが遅い「S波」(主要動)がある。P波は秒速7k~8kmと速い速度で広がるが、揺れそのものは大きくない。S波は秒速3k~4kmとP波の半分の速さだが、揺れが大きい。地震で大きな被害をもたらすのはS波の方である。

 緊急地震速報では、日本全国に配置した地震計でP波を検出し、S波の到達時間を予測する。震源から50kmの距離があれば、P波の検出からS波到達まで15秒程度の時間がある。そこで、大きな揺れに結びつきそうなP波を検出した場合は、放送や携帯電話を使って警告を発する。

 もちろん、緊急地震速報にも限界がある。(1)極めて大規模な地震は推定精度が落ちる、(2)異なる場所で同時に発生した地震を分離して処理しきれない、(3)地震計の数が減ると予想の正確性が低下する、などだ。特に(2)と(3)は震災後の速報的中率の低下に影響した。

 気象庁が3月29日に発表した資料によると、3月11日の本震から3月29日1時までに「震度4以上」と予測した速報45本のうち、30回は震度2以下の地域があった。今回は太平洋沖だけでなく、長野・新潟の内陸部でも大きな地震があった。余震が様々な震源で生じてしまい、(2)の弱点を露呈してしまった格好だ。

 東北地方の地震や津波による被害が大きく、停電や通信断で地震計が使えなくなる事態が生じた。これにより、(3)の弱点が出てきてしまった。気象庁は復旧を急いだが、それでも緊急地震速報の精度が落ちた状態がしばらく続いた。

 大きな地震が発生した後は、大きな余震の恐れがある。しかし、大きな地震の後は緊急地震速報の精度が落ちてしまう。東日本大震災は地震予測に大きな課題を突きつけている。