東日本大震災の被災者支援や企業の復興に、クラウドコンピューティングが活躍している。「システム構築の迅速さ」というクラウドの特徴と、災害対策に求められる「即応性」がうまく結びついたようだ。

 災害時には様々なインフラが寸断されてしまう。東日本大震災でも、通信、交通、電力、水道、ガス、ガソリンスタンドなど様々なインフラに不具合が生じた。こうなると、オンサイトのサーバーが無力になってしまう。通信が復旧しても、電力が無ければサーバーは動かない。地震でサーバーが故障してしまった場合は、物流が回復するまでは代替機を入手できない。

 また、大規模な災害では被災者やその家族、関係者の数も多数になる。情報が集まるWebサイトにはアクセスが集中してしまい、情報発信に支障を来たす可能性もある。

 こうした状況から、多くのクラウド事業者が被災地または被災者支援団体向けにクラウドサービスの無償提供を表明した。例えば日本マイクロソフトはWindows Azure Platformの無償提供や、クラウドサービスのExchange Online、SharePoint Online、Lync Online、Microsoft Dynamics CRM Onlineを無償提供している。

 このほか、インターネットイニシアティブNECビッグローブソフトバンクテレコム日本IBMニフティ富士通などが仮想サーバーを無償提供している。

 JBCCホールディングスは基幹業務向けサーバー「IBM i」のクラウドサービスを提供するなど、様々な仮想サーバーが迅速に被災地で使えるようにIT企業は支援策を矢継ぎ早に発表している。

負荷軽減で自治体サイトを救え

 クラウドの迅速性を生かした例としては、自治体や公共団体のWebサイトに対するミラーサイトの提供がある。

 被災者やその関係者にとって、自治体や公共団体の発信する情報は生命線になる。しかし、一般に自治体や公共団体のWebサイトは大量のトラフィックをさばくようには作られていない。震災発生当初は、サーバーが無事でもアクセス集中でレスポンスが低下したり、ほとんど使えない状態に陥った自治体サイトも少なくなった。

 負荷分散が急務となるなか、クラウド事業者はミラーサーバーやキャッシュサーバーの構築を買って出た(IIJによる自治体サイトのミラー一覧さくらインターネットによる公共団体サイトのミラー一覧)。

 コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)事業者も、自治体や公共団体のミラーサイトを無償提供している(関連記事:被災地支援にCDNを無料提供、シーディーネットワークス・ジャパンNTTコムが被災者支援にコンテンツデリバリーサービスを無償提供)。

 東京電力の計画停電予定のように、きわめて多数の国民に影響する情報については、Yahoo!やGoogle、MSN、goo、Mapion、エキサイトなど大手ポータルや地図サイトが情報配信を手伝う(関連記事:OutlookやLive Hotmailに取り込める計画停電カレンダー、MSが公開マピオンが「計画停電エリアマップ」をモバイル向けにも提供など)。

 インターネット上にプールしたコンピューティングリソースを、被災地や関係機関への“支援物資”として早期提供する――。クラウドだからこそできる、ITの側面からの支援となっている。