JavaScriptは1995年に誕生しました。JavaScriptの実行環境がWebブラウザであったこともあり、JavaScriptの歴史はWebブラウザの歴史そのものでした。Webブラウザ間の互換性やセキュリティの問題などで“不遇”の時代はあったものの、2010年現在、JavaScriptはWebサイト開発になくてはならない存在となっています。

 JavaScriptを取り巻く環境は、15年の間にすっかり様変わりしました。Webサイト開発者であるプログラマが書き上げるJavaScriptプログラムが単体では完結しなくなっているのです。単体で使えないとはどういうことでしょうか?

 現在のJavaScriptプログラミングには、大きく二つのトレンドがあります。一つは、外部のJavaScriptライブラリを取り込んで利用すること、そしてもう一つは、大手Webサイトなどが公開しているWeb APIを呼び出して利用することです。悲しいかな、すべての機能をプログラマが一から書いて実装するというJavaScriptの使い方は、プロの開発現場においては衰退の一途です。

 しかしここは発想を転換しましょう。外部のライブラリやWeb APIを使用すれば、多彩な視覚効果を備えたり、外部のサービスを組み込んだ高機能なWebサイトを、少ないコード量で構築できます。JavaScriptそのものは、言語仕様がシンプルですから、プログラマだけでなく、プログラミングに苦手意識を持っているWebデザイナも短期間で習得できます。すなわち、今日のJavaScriptは「誰でも簡単に高機能なページを作れる言語」になっています。さあ、ではいまどきのJavaScriptの世界を覗いていくことにしましょう。

Web APIによるサービスのばらまきが主流に

 最初は、より簡単に着手できるWeb APIの方から話を進めましょう。Web APIとは、あるWebサイトが提供するサービスを別のWebサイトに取り込んで利用する際の“やり取りの取り決め”です。企業などが自社で提供しているサービスを、外部からの呼び出し方法などを説明するドキュメントを添えて公開することが多いようです。

 Web APIを提供しているのは、Google、Twitter、Amazon、Microsoft、Yahoo!、YouTubeなどの大手サイトがメインです。外部からサービスの機能を使われるわけですから、それだけの負荷に耐えられるサーバーを用意する必要があるからでしょう。かつては、サービスを利用するには、そのベンダーのWebサイトに行く必要がありました。すなわち「サイトに来てもらうためにサービスを提供する」という“囲い込み”の考え方が主流でした。現在では「サービスを自社サイト以外でも広範囲に利用できるようにする」、いわば“ばらまき”が主流になりつつあります。Web API公開の普及は、複数のベンダーが提供するWeb APIを組み合わせて独自のアプリケーションを作成する「マッシュアップ」という新しい潮流も生み出しています。

 Web APIの例として、しばしば挙げられるのが「Googleマップ」です。GoogleマップのWeb APIを利用すれば、個人や企業のWebページにGoogleマップを“貼り付ける”ことができます(図1)。このときWebページに貼り付けられるのは、地図の画像ではありません。マウスをドラッグして地図上の位置を動かしたり、マウス・ホイールで縮尺を変更できる、GoogleのサイトのGoogleマップと同等の機能を備えた地図サービスそのものです。

 最近の事例として、よく目にするのがTwitterでしょう。Twitterは、同社がサーバーに保存しているユーザーの発言(つぶやき)の表示や検索の機能を、Web APIとして提供することで、独自のTwitterクライアントを作成することを可能にしました。その結果、多くのユーザーが、便利な機能を備えたTwitterクライアントを開発・公開し、プラットフォームもパソコンから携帯電話やスマートフォンなどモバイル機器へと広がりました(図2)。さらに、つぶやきとスマートフォンの位置情報をリンクさせたり、携帯電話で撮影した写真とつぶやきをリンクさせるなど、数多くのマッシュアップが世に送り出されています。

図1●GoogleマップのWeb APIの利用例(WebブラウザはOpera)。地図は、表示地点を移動したり、縮尺を変えられる
図1●GoogleマップのWeb APIの利用例(WebブラウザはOpera)。地図は、表示地点を移動したり、縮尺を変えられる
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図2●TwitterクライアントはWindowsアプリケーションでもたくさん作られている。図は「Twit」の例
図2●TwitterクライアントはWindowsアプリケーションでもたくさん作られている。図は「Twit」の例
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 Web APIを介したサービスの提供は、本家の公式サイトへの直接のアクセス数をそれだけ落とすことになります。しかし、どんなツールを使っていてもユーザーは「Twitterを利用している」と自覚しているという点で、Twitterそのものの知名度は落ちるどころか上昇していったわけです。

 TwitterやGoogleマップの成功は、今後のWeb API事情に大きく影響を及ぼしていくでしょう。大手サイトは今以上にWeb APIを介したサービスの提供者としての側面を強調していくことになると考えられます。