情報システムのトラブルを含め、失敗事例を集めた本である。「百選」とあるが、著者が抽出した「失敗シナリオ」を60件、シナリオごとの失敗事例を180件収録する。失敗シナリオには、前著の『失敗百選』で示した41件に加え、「隠れ機能に干渉」「マニュアル無視」「要件定義不足」など19件を追加した。

 失敗事例180件は、著者の専門である機械をはじめ、電子機器、情報システム、航空や交通、建築、医療など多岐にわたる。著者は自身が所属する東京大学の失敗を含めて586件の事例を調べ、そこから選んだ180件の大半に「自分が納得するような図」を描いて掲載している。400ページに迫る労作である。

 人命にかかわる事例も複数収録されているが、読んでいて暗くなる本ではなく、逆に元気が出てくる本である。その明るさは「人生の目的は『楽しく生きる』であり、失敗学はその一手段にすぎない」とする著者の姿勢から来ている。

 人が失敗を学ぶのは挑戦するためである。「失敗はしなくても(中略)活気がない組織は時代遅れ」「ブレーキテストが終わったら、アクセルを吹かせてみよう」と著者は読者に呼びかける。

 この姿勢があるため、失敗防止に当たっては「誰が自分の顧客で、何が自分に課された要求機能なのかを定義すべき」とデザインの本質論を述べ、「地道な再発防止作業をコツコツと行っていると(中略)教条的になる」と「手段の目的化」について警告する。

 著者は昔から「他人が決めた順番を守らない」そうで、読者に対しても「興味順に回るほうが速い」と薦める。巻頭の「はじめに」と巻末の「おわりに」は、おきまりの挨拶文ではなく、本論が展開されているので必読である。そして第1部を読んでから、第2部の事例のうち、興味があるものから“回れ”ばいいだろう。

 「日本のエンジニアもあと10年すれば強くなるかもしれないが、今のところ会社の“付属品”である」など、事例解説の合間に歯に衣着せぬ主張が次々に飛び出す。ただし本書の基調は「理系」へのエールである。

 失敗シナリオの「共感不足」で詳述された東大の事例には思わず笑ってしまった。もっとも本書における一番の批判対象はマスコミや記者だ。その矢は評者にも刺さった。

続・失敗百選

続・失敗百選
中尾 政之著
森北出版発行
3780円(税込)