人が持ち歩く携帯電話やICカードなどを起点に、あらゆる行動履歴を記録・蓄積してマーケティングなどに活用する取り組みを「ライフログ」という。新たな販促手法としての可能性を秘めている。

 コンピュータの操作履歴を一般に「ログ」と呼ぶが、これを拡張し、パソコンや携帯電話でウェブサイトを閲覧したり、交通機関で移動したりといったライフ(生活)全体のログを分析して活用する。ライフログから顧客の嗜好や生活パターンを深く知ることで、より的確な商品・サービスの提案につなげられる()。

図●ICカード・携帯電話から日々の行動履歴を取得・分析する「ライフログ」
図●ICカード・携帯電話から日々の行動履歴を取得・分析する「ライフログ」
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 ライフログが脚光を浴びている背景には、フェリカ(おサイフケータイ)機能付きの携帯電話や、交通系ICカードの普及がある。フェリカネットワークス(東京・品川)の調べによると、2009年3月までのフェリカ機能付き携帯電話販売数は約5800万台。常時身に着ける携帯電話やICカードは、まさにライフログ取得のツールに適している。

意外なリピーターを発掘

写真●日本マクドナルドは2009年中に「かざすクーポン」を全店導入
写真●日本マクドナルドは2009年中に「かざすクーポン」を全店導入
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 福岡市の中心部、天神の繁華街にあるマクドナルドのカウンターからは「パラッパッパッパー」というおなじみのサウンドロゴが頻繁に聞こえてくる。顧客が携帯電話をレジ脇の端末にかざして“クーポン券”を使用した時に鳴る音だ。

 レジに並ぶ前に、メニューではなく携帯電話の画面を見て注文する商品を選ぶ顧客も多い。携帯電話で選択しておけば、端末にかざすだけで注文が完了する。

 この「かざすクーポン」は日本マクドナルドが2008年5月から九州地区で始めたサービス(写真)。福岡の多い店では利用率が1割程度にまで達しているという。2009年5月時点では近畿や関東を含む約2100店舗で展開しており、同年中に全約3700店に導入を完了させる。

 「かざすクーポン」導入の狙いは3つある。1つ目は接客時間の短縮。注文時間は数品購入の場合で1分程度から10秒程度にまで短縮できる。その分、ランチタイムなど繁忙時の行列を減らせる。2つ目は、紙のクーポンから電子クーポンへの置き換えによるコスト削減。九州地区では既に半数が紙からシフトしている。

 より重要なのが3つ目だ。イーマーケティング本部の宇井昭如・上席部長は「フットプリント(購買履歴)が取れるというのが大きい。一部の高額商品などを除いて、一般消費者向けの事業では、従来は誰が何を買っているかを理解しないままマーケティングをしていた。かざすクーポンでこの状況を変えられる」と説明する。

およそ10人の分析チームが新たな行動パターンを探す

 かざすクーポンの仕組みはこうだ。おサイフケータイ機能付き携帯電話から専用サイトにアクセスし、「かざすクーポンアプリ」をダウンロードする。この時に携帯メールアドレス、居住地域、生年月日、性別や子供の数などを登録する。

 その後、携帯電話でアプリを立ち上げると、その地域での販売商品などを踏まえた電子クーポンがほぼ週替わりで配信される。顧客は携帯電話のキーでどのクーポンを何枚使うかを入力したうえで店のレジ横にある端末にかざすと注文が完了する。レジでは、注文された商品と携帯電話に付与された顧客IDを結び付けてサーバーに送る。すなわち、「誰が・いつ・どの店で・何を買ったか」というデータが蓄積される。

 日本マクドナルドは、10人前後の分析チームを擁して顧客分析を進めている。ここから、従来のサンプル調査からは見えなかった事実が明らかになりつつある。

 例えば「(低カロリーの)『フィレオフィッシュ』は女性のリピーターが多い」という事実はサンプル調査通りだったが、「(高カロリーの)『クォーターパウンダー』で女性のリピーターが想定より多い」などの新たな傾向が見えてきた。毎日ほぼ同じ時間に必ず来店するなど特徴的な行動パターンを示す人も把握できた。

 かざすクーポン利用者の利用店舗数を分析すると、1店舗か2店舗の人が大半を占めるという。2店舗がオフィス街と住宅街であれば、平日には腹ごしらえ用メニューのクーポンを、休日には子供用のおもちゃが付いた「ハッピーセット」のクーポンを配信して来店を促すという販促策が考えられる。