米国ラスベガスで開催された国際家電見本市(CES)を今年も見学してきた。今回の目玉はAndroid OSを搭載したタブレット端末である。多くの展示のうち、やはり最も盛況なブースは韓国サムスンであった。同社はここ数年、常に最大規模の展示面積を誇り、その勢いを見せつけるかのようである。残念ながら日本企業はタブレットでは明らかに出遅れているように感じた。国内はともかく、ワールドワイドでのビジネスはかなり厳しい状況ではないだろうか。

 筆者が今回の渡米で最も興味深く感じたのはCESの展示よりも、米国でのモバイル環境の整備が急速に進んでいることであった。iPhoneを持っていれば空港や商業施設などで簡単に無料のWi-Fiに接続できる。明らかに昨年よりも通信ポイントが大きく広がっていた。例えばアバクロで買い物してレジ待ちをしながらWi-Fi接続で日本からのメールに返信する、といったことが普通にできる。PCではその大きさから難しいことであり、スマートフォンやタブレットが入出力デバイスの主役となる時代がついにやってきたと、PC世代の筆者でも思わざるを得ない。

 しかし、日本人には大きな課題がある。ポケットに入る端末がすぐに起動して場所を選ばず簡単にインターネットに接続できる―このすごさを本当に実感するには、「英語」が必要なこともまた事実だからである。

 CESでは専用のiPhoneアプリが無料でダウンロードでき、とても便利なツールなのだが、膨大な情報が次々と流れ込んでくる。得意とはいえないまでもそこそこ英語力はあるつもりであったが、筆者の英語読解速度ではその量とスピードに全く追いつかない。そのアプリはTwitterやFacebookとも連動しており、会場にいる人々がリアルタイムでTwitterを介して情報交換し、Facebookで人脈を広げている。

 その状況を目の当たりにして、混雑した会場にいるにもかかわらず強い孤独感に襲われた。Facebookには5億人のユーザーがいるといわれるが、その大半は英語ユーザーである。シェアにして0.5%にも満たない200万人の日本人ユーザーの多くは「離れ小島」にいてFacebookの本来の価値を知ることができないのではないか。

 これはやはりどう考えても、日本人ITエンジニアは英語を勉強したほうがよいだろう。さらに大事なことは、日本語でもよいから外国人とコミュニケーションを取り、一緒に働く経験をすることだ。筆者は会社創業時に2人の米国人と一緒に働いた。また社長になってから中国人と台湾人を採用した。みな日本語が堪能だったので、筆者の英語や中国語の訓練には全くならなかったが、彼らのモノの考え方や行動力には学ぶところが多かった。

 米国人社員のAは、ハイスクール時代にアルバイトで企業システムのプログラムを書き、その金でハーバード大学の高い授業料を払ったというつわもので、真冬でもTシャツ短パンにひげモジャといった風貌であった。ある日、プログラミングで文字コードの外字が問題になった。Aに常用漢字でない字についていろいろと質問されたが、日本人社員は全員分からない。するとAは「図書館に行く」と言って出ていき、夜遅く「面白かった。問題解決した」とニコニコして戻ってきた。聞くと、漢和辞典を調べているうちに面白くなって10時間以上読んでいたという。そして休息も取らずにプログラミングを始めた。その強靭な脳みそのスタミナに舌を巻いたものである。

 ネットや機器の進化によって世界のつながりはどんどん拡張していくだろう。ITエンジニアの仕事は確実に、その影響を大きく受ける。変化の大きな時代にあって、「外」や「異」を知ることはエンジニアが成長する上で必要な栄養素である。海外に行かなくとも、日本にいる外国人エンジニアたちとの交流をお勧めしたい。その気になれば機会はいくらでもあるはずだ。

永井 昭弘(ながい あきひろ)
1963年東京都出身。イントリーグ代表取締役社長兼CEO、NPO法人全国異業種グループネットワークフォーラム(INF)副理事長。日本IBMの金融担当SEを経て、ベンチャー系ITコンサルのイントリーグに参画、96年社長に就任。多数のIT案件のコーディネーションおよびコンサルティング、RFP作成支援などを手掛ける。著書に「事例で学ぶRFP作成術実践マニュアル」「RFP&提案書完全マニュアル」(日経BP社)、