Q: 部門横断型プロジェクトの「統括管理者」が機能しません。

 社内のプロジェクトを立ち上げる際、「統括管理者」や「全体管理者」などの役割がセッティングされます。特に部門横断型のプロジェクトの際には重要な役割になります。

 ところが、この機能は毎回揉めます。まあ人の少ない中小企業ですので、その様な立場に立つのはだいたい決まっているのですが、経営者が期待している機能と、本人が思っている役割と、その配下につくメンバーが望んでいるものが、すべて食い違っているように感じるのです。

 経営者は全部ではなく、全体調整の機能を求めるが、当人は下に任せていると信じている。だからトラブル時に怒られたとしても、メンバーの動きが悪いからトラブルになったと思い、なぜ自分が怒られるか分からない。メンバーは自分たちが動く上で障害になるものを取り除いて欲しいし、自分たちでは決めきれないことを決めてもらいたいのに、関係ないことばかり依頼される。

 そのような状況です。かつ、このようなシチュエーションが何度となく繰り返されます。これはコミュニケーションの問題なのでしょうか?何か、良い対策はないのでしょうか。(38歳、男性、管理職兼SE)

A: 統括責任者の業務内容と責任分担を文書化せよ。

 あなたの悩みを拝察しますと、これはコミュニケーションの問題ではありません。

  • 人事的な問題と考えるならば、ジョブ・ディスクリプションの問題
  • プロジェクト運営上の問題と捉えるならば責任分担表(RAM:Responsibility Assignment Matrix)の問題

 つまり、業務内容の文書化とその徹底のための評価システムが問題なのです。

 まずは、いつものようにあなたの悩みをステークホルダーごとに模式化してみましょう。

現象の要因分析

 部門横断型プロジェクトにおいて、会社としては「統括責任者」に対して全体調整機能を求めています。会社にとって「全体調整」とは、複数の組織にまたがる利害を調整し、目的とする成果を出すことです。

 当然その場合には、役割を果たすために必要な権限を付与する必要があります。つまり、その目的を果たすための計画策定やそれにかかわる人材のアサイン、組織間で業績評価や人事にかかわる利害を調整し、それらを上層部に具申して決定することなどです。

 まずは、会社として、それらを明確化する必要があります。できれば文書化して、それを「統括責任者」と関連組織に通達すべきです。

 そうは言っても日本人同士の現場では、「不文律」が存在し、文書に書いてある通りに動かないことがよくあります。したがって、重要なプロジェクトであれば、会社としてそれを徹底させる仕組みが必要です。

 例えば、キックオフミーティングを開いて責任ある役員がその役割と権限を明示し、関係者全員に説明するのです。

 私がかつてIBMで国際的なプロジェクトにかかわった際には、必ず最初のキックオフで各自の役割と権限を明示し文書化する所から始めたものです。日本で、さらに中小企業で互いの顔をよく見知った間柄では、中々このような杓子定規なことはしませんが、それがこのような混乱を招くのです。

 この模式図では、会社の部分にそれが決定的に欠けているのです。

 そうなると、当然ながら「統括責任者」にアサインされた方は、自分の役割、責任、権限を勝手に都合よく解釈します。

 一番ラクなのはすべてを部下に任せて自分はその御神輿に乗ることですから、当然そのようになるのです。トラブルが起こっても自分は任せているのだからすべては部下の責任と考えます。面倒くさい部門間の利害調整は上層部の責任だと思っているでしょうから、安全を考えて何もしません。

 これでは、複数部門にまたがる部下は、たまったものではありません。一体誰が部門間調整してくれるのかも分からないので、当然、安全を考えて自分の殻に閉じこもってしまいます。何か問題が起こっても、それは統括責任者が調整してくれていないからで自分のせいではない、という認識があるので不満は鬱積するばかりです。決めて欲しいことを決めてくれずに結果ばかり求められても、自分達にはどうしようもないからです。これでは部門横断型プロジェクトがうまくいくはずがありません。