PM(プロジェクトマネジャー)は、ある時はプロジェクトメンバーの行動や成果を評価する立場になり、またある時はプロジェクトの責任者として顧客や社内上層部から評価される立場になる。つまり、その時々に応じて他人を評価したり、また他人から評価されたりする立場となる。人を評価することを得意とする人は少なくないが、自分を客観的に評価できる人は意外と少ない。他人のことは感情的にならず冷静かつ客観的に評価できる人でも、自己評価となると辛すぎたり甘すぎたりと、はたから見ても「その自己評価はどうか?」と疑問に思うことも多々ある。それどころか、全く自己評価をせず、自分のやってきたことを振り返らない人も多いように感じる。
“歴戦の勇者”であるSさんのケース
Sさんはこれまで幾つものプロジェクトにおいて困難をくぐり抜けてきた“歴戦の勇者”である。その実績からか常に自信に満ちあふれ、若手からは「SさんがPMなら、どこまでも付いていける」と思われる存在であり、社内でもその腕は高く評価されていた。このSさんが、ある火を噴いたプロジェクトの火消し役として投入されることとなった。
問題となったプロジェクトのPMは、若手ながら社内では「沈着冷静で若いのに肝が据わっている」と言われるRさんだった。火の手の原因はそんなRさんの判断ミスで、プロジェクトの後半に広範囲の仕様を変更することになってしまった。Rさんに対する顧客からの目も厳しくなっており、さすがの彼も少々自信を失い気味になっていた。そこで会社側はSさんを以降のPMとし、RさんはSさんの補佐として勉強させることにした。
Sさんは着任早々、精力的に動いた。何事にも自信を持って大胆に行動するSさんは、プロジェクトに対する救世主のようにも見えたのだった。
そんなSさんに対してRさんは多少疑問に思うようなことがあったとしても「Sさんが言うのであれば…」と飲み込んでしまい納得するようにしていた。一方のSさんは「Rさんのやり方は間違っている。俺のやり方が正しいはずである」と思い込んでいた。
その後プロジェクトは進み、順調に立て直せるかに見えた、まさにその時である。これまでとは全く別の箇所で問題が判明した。そこはSさんが着任してから手を付けた箇所であった。
実は、この問題に至るまでに、幾つかのターニングポイントはあった。当然のことながら、Sさんはその時々で決断してきたわけだが、Rさんはその決断全てについて合意できていたわけではなかった。RさんとしてはSさんが下した決断の中で、幾つかの決断については「ん?」と疑問に思うことがあったのだ。しかしRさんは「Sさんのほうが自分より上」と考えて何も言わなかったのである。
一方、SさんはSさんで、誰の意見も聞こうとはしなかった。むしろ、「俺の決定に異を挟むな」という雰囲気ですらあった。なぜならば、元々火の手の上がっているプロジェクトへ、急きょ火消し役として投入された人間である。そういう役割を担った自分だからこそ、正しい選択肢を示せると考えていた。
新たな問題が発生したと知ってSさんは少々興奮してしまったが、一方のRさんは持ち前の冷静さを取り戻し、自分なりに分析した結果をSさんに伝えた。
「この問題が起こる予兆はありました。今ならまだ取り戻せます。このサブシステムだけ少しフェーズを巻き戻しましょう」。これを聞いたSさんは激高する。「なぜ問題が起こると知っていて今まで黙っていたんだ。だからお前は駄目なんだ」。
結果的に、この問題の後始末はRさんが行い、延焼を最小限に押さえることができた。全てはRさんの努力の結果だった。
プロジェクト評価フェーズに入り、SさんとRさんはそれぞれ評価を行うことになった。SさんのRさんに対する評価は極めて低かった。自分が投入された後に判明した問題もRさんに責任があると考えていたためだ。Rさんはこのプロジェクトを完遂するにはSさん抜きにできなかったとして、自分の評価もそこそこに、Sさんに対して高い評価を付けたのだった。
これを見たPMO(Project Management Office)の部長は二人に対して、「自己評価ができないような人間はPMとしてふさわしくない。再度自己評価を行い、それを踏まえた上でレポートし直すように」と指導したのである。