なかなか本格的な普及に至らないNFCを利用したモバイル決済。ここにきて状況が大きく変わろうとしている。米国では大手携帯電話事業者3社が合弁会社を設立するなど、競合同士がモバイル決済で結束する動きが出てきた。そして米グーグルなどスマートフォンOS陣営がこぞってNFCへ参画する姿勢を見せている。


 近距離無線通信規格のNFC(Near Field Communications)を利用するモバイル決済を巡る動きがにわかに活発になってきた。米国では2010年11月に大手携帯電話事業者が合弁会社の設立を発表。韓国では初の商用サービスが始まり、フランスでも2011年にトライアルの全国展開が予定されている。さらに米グーグルを筆頭に主要なスマートフォンOS陣営が参入。業界構造が大きく変わる兆しも見えてきた。

競合の携帯事業者同士が結束

 NFCはオランダのフィリップス(現在はNXP)とソニーが2002年に考案。翌年12月にはISO(国際標準化機構)が国際標準規格として承認した。 2004年には促進母体となるNFCフォーラムが設立され、100社以上がこれに参画した。2005年以降は世界各地でNFCを活用した様々な決済サービスのトライアルが実施され、その数は150件を超えた。背景には、当時、音声収入の低下に悩む携帯電話事業者が新市場の形成を模索していたことがある。しかし結局、商用化へこぎつけたり、十分な収益が確保できるサービスに成長したりといったケースは皆無といってよく、普及・拡大に苦戦する状況が長く続いてきた。

 2010年に入って状況が変わり、欧米、アジアを中心に世界各地で携帯事業者の動きが活気を帯びてきた。

 米国の大手携帯事業者であるベライゾン・ワイヤレス、AT&T、T-モバイルの3社は2010年11月16日、合弁会社アイシスの設立を発表した(図1)。各社の加入者規模は全米1位、2位、4位で合計約2億人となり、年間の端末販売台数は1億台にも上る。これら3社によれば、この発表から18カ月以内にNFC対応の携帯電話、特にスマートフォンを活用したモバイル決済ネットワークを全米の主要市場に展開する計画である。なお、当初は全米第3位のスプリントもこの計画に参加しコアとなる技術開発に取り組んでいたが、自社の業績悪化から撤退せざるを得なかったとも報道されている。

図1●NFCをめぐる最近の主な動き
図1●NFCをめぐる最近の主な動き
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 フランスのニースでは、2010年5月にNFC対応の携帯電話を活用した決済サービスの大規模トライアルが始まった。このトライアルには、オレンジ、 SFR、ブイグテレコムなど携帯事業者のほか、銀行や小売業、鉄道会社など多岐にわたる業界から参加があり、フランス政府も支援している。セキュリティを重視したSIMカード「Cityzi」を採用して、小売店の決済や電車のチケット、クーポンなどによるサービスを提供している。2011年にはフランス全土に展開する計画である。このほかドイツでもボーダフォンとドイツ鉄道が2008年3月に開始したチケットサービスにT-モバイルやO2が加わり、拡大する傾向にある。

 韓国のKTは2010年10月、同国初となるNFCの商用サービス「Show Touch」を開始した。シンガポールのスターハブは2010年11月に始めたトライアルで、GSMアソシエーションが推奨するモバイル決済用プロトコル「SWP」(Single Wireless Protocol)を世界で初採用し、注目を集めている。

 大手インフラベンダーも積極的に乗り出した。仏アルカテル・ルーセントは2010年3月、主に事業者向けにモバイル決済サービスをパッケージ化した「Mobile Wallet Service(MWS)」を発表。同サービスは、携帯電話の電子マネーやクーポン、ロイヤルティープログラムなど様々なサービスを一貫して提供できるクラウドコンピューティングのサービスである。