世界最先端だったはずの日本の携帯電話が海外市場に展開できず、“ガラケー”などと呼ばれるようになってしまったのは大変残念なことだ。その議論の流れで「日本製品は無駄な機能が多い」と指摘する人がいるが、その指摘はフェアではない。機能が増えるのは日本製品に限った話ではないからだ。ただ、そこには、技術者が向き合わなければならない大きな課題がある。

 身近なソフトウエア製品を思い浮かべてみよう。オフィスソフトやWebブラウザーなどの最初のバージョンを思い出してみると、機能は少なくシンプルである。けれどもバージョンが上がるにつれ、誰が使うのか分からない機能が増えていく。これは、もちろん日本製ソフトに限った話ではない。ライバル製品と競争しながらバージョンアップを繰り返したとき、機能は確実に増えていく。筆者の考えでは、機能が増えるのは熱力学における「エントロピー(乱雑さ)増大の法則」にも似た自然の摂理に近い。

 機能が増えるファクターにはいろいろあるが、その大半を占めるのは実際に使っているユーザーの声だ。多くの人が使うツールになれば、それぞれの立場でさまざまな用途に使うので、ほかの人にとって無駄に思える多様なニーズが上がってくる。例えば、ワープロソフトを年賀状の作成に使う人からは、宛名書きの機能が欲しいという声が出てくる。だが、年賀状を作成しない人にとっては不要な機能である。

 一方で、一度提供した機能を減らすファクターはほとんどない。わずかでも使われていれば、その機能をなくすことはユーザーの利便性を損なうからだ。つまり、機能を増やす力は強く、減らす力は弱い。こうして製品の機能は、あらゆる方向に膨らんでいく。

 無秩序な機能追加を行うと、設計ポリシーが崩れ、何でもできるが使いにくい製品になってしまう。ハードでもソフトでも、システム開発でも事情は同じ。使いやすい製品やシステムであり続けるには、設計ポリシーからの逸脱を避けるべきである。これは、分野を超えた技術者に共通の指針だ。