田中淳子氏と芦屋広太氏によるヒューマンスキル往復書簡の第2回。芦屋氏の「指導を止めたら伸び始めた」部下についての話を受けて、「部下をあえて外に出す」「他社の部下を進んで引き受ける」といった「企業を超えて人を育てる」姿勢や度量の大切さを田中氏が話します。(編集部)

芦屋さんへ

 指導を止めたら部下が「伸びた」とのこと、まずはよかったですね。文章(伸び悩んだ部下が「少しだけ壁を越えた」 )を読み、子供のころ読んだ絵本を思い出しました。イソップ物語に出てくる、あの有名な「北風と太陽」です。

 この物語では「旅人のコートを脱がせることができるのはどちらか?」を北風と太陽が競い合います。北風が思いっきり強く吹き付けて脱がせようとすると、旅人は余計にコートの前を押さえてしまう。太陽が暖かく照らしたら旅人は自らコートを脱ぐ、というものです。

 部下に変化が表れたということと、この話は共通点があるなあと思ったのです。行動を引き起こすには、その人が内発的に動機づけられることが大切である。「北風と太陽」はこのことを説いている話だと私は捉えています。

 部下に対して、「褒める」「感謝する」という前向きな言葉を投げ掛けるようにしたと言われましたね。このことによって、部下も旅人と同様に、内発的に動機づけられたのではないでしょうか。

「自分も頑張ればできる」

 人は誰でも「ここがダメだ」「あれをしろ」と頭ごなしに言われると、抵抗を感じるものだと思います。自分にダメな部分があることを自覚していて、改善したいとさえ感じていたとしても、やはり素直には受け取れないのが普通でしょう。

 しかも、年齢を重ねれば重ねるほど、他者からのダメ出しに対して、より反発を感じるようにもなります。正直言って、私もそうです。

 でも「ありがとう」「これがよかったよ」と自分がしていることを認める言葉をかけられたら、話は別です。「これからも続けていこう」と前向きに意識するようになると思うのです。芦屋さんの部下も、褒められたことで「自分もやればできる」という自己効力感が高まり、やる気が出てきたのかもしれませんね。

 と言いつつ、上司の気持ちも実はよく分かります。「より良くなってほしい」と思うあまり、褒めるよりもつい改善点を指摘してしまいがちですから。

 部下に「背中を見せる」こともしたと言われましたね。「上司や先輩の背中を見せる」とよく言いますが、部下にしてみたら「どの背中をどう見たらいいのかわからない」という場合が多いようです。背中を見て真似したつもりが、「それは違う」と言われてしまうこともあります。

 事前に一言、「私の『こういう部分』を特によく観察してね」と、目の付けどころを教えておくことも大事だと思っています。人によって、立っているアンテナもその感度も異なるからです。