ビジネスブレイン太田昭和
会計システム研究所 所長
中澤 進

 前回に引き続き、「企業財務会計士」が日本企業で活躍できる環境について考えてみたい。米国ではAICPA(米国公認会計士協会)に登録済みの会計士が40万人程度存在しており、そのうち約半数は企業活動に従事している。その理由としてCFO(最高財務責任者)組織の存在などが挙げられることを紹介してきた。

 こうした米国の状況に対し、日本では企業など経済界への公認会計士の就職が進まず、待機合格者の問題が生じていることは前回も述べた。この待機合格者の問題をあくまで制度設計上のミスに起因するものと捉え、対策として企業への公認会計士の採用義務付けを訴えるだけでは、そもそも日本企業が抱える本質的な問題が隠されてしまうという恐れを感じる。

 短期的には、企業への会計士の採用義務付けは必要であろう。その場合も特に企業側の経営層に対して、自社の会計リテラシーの低さが自社の経営管理の仕組みが脆弱である大きな要因の一つであると気付かせるきっかけにしたいものである。大きく言うなら、これが日本企業全体を覆う経営課題であると捉えるような流れを作っていきたいものだ。

会計士の活躍の場が広がるのは企業にとって大きなメリット

 企業の会計リテラシーが低いという問題が表面化している典型的な現象が、IFRS(国際会計基準)対応における人材不足である。併せて、グローバルに展開している企業における本社経営管理のスタッフ不足という点においても表面化している。

 こうした人材不足は間接的に、会計システム再構築や決算早期化などを支援する会計関連プロジェクト要員、特にリーダークラスの不足につながっている。失われた20年の中で、経理・財務部門が理不尽な省力化の対象になったことが一因だが、それ以上に今や、現場たたき上げの経理スタッフだけでは各種の変化に対応できない時代に来ていると言えよう。

 各企業は会計人材不足の問題に対して、会計知識が豊富な外部コンサルタントを活用して対応しようとしているようだ。しかし、いま挙げた課題は一過性のものではないことを十分認識する必要がある。

 一時的に外部コンサルタントを活用しても、その知識と経験が組織に蓄積されるわけではない。企業は社員としての会計専門家(会計プロフェッション)の確保を考えなければならない。

 このように考えていくと、今回の企業財務会計士(もちろん公認会計士でもよい)の活躍の場が広がることは、日本企業にとって大きなメリットがあると言ってよい。企業の会計リテラシーの底上げに貢献し、ひいては欧米グローバル企業に伍して戦わなければならない日本企業のグループ本社機能の強化につながるからである。