クラウドへの移行を企画したものの、なかなかユーザーや主管部署に受け入れられないというケースは多い。こうした状況はなぜ発生するのか。その回避策として、どのような施策が考えられるのだろうか。
山本 真、櫻井 敬昭
前回の「さまよえるコスト削減(1)信用失墜でクラウド化が頓挫」では、経営層からコスト削減を指示されたA社のIT部門が、クラウド活用によるコスト削減策を立案したものの、結果としてコスト増を招いてしまった事例を紹介した。
A社のIT部門は、セキュリティや監査への対応など、クラウドと自社保有システムの違いをよく理解して事前に対応していた。しかし、大きなコスト削減効果が見込まれる人事システムのクラウド化に、当の人事部からそっぽを向かれた。また、対象を営業系システムに切り替えてクラウド化にこぎ着けたものの、財務面でクラウドと自社保有システムの違いを見落とし、長期では逆にコスト高になってしまった。
今回はA社の失敗事例に対する解説編として、「なぜそのような状況が生まれてしまったのか」、また「どうすればこれが回避できたのか」を考察していく。ポイントは3つある。絶好のクラウド化案件を確実に進めるための「説得力」、自社保有システムとクラウドの「違いの認識」、そして「クラウドのリスク」だ。
クラウドの導入に納得感はあるか?
A社の事例では、高いROI(投資対効果)を生む「人事システムのクラウド化」をIT部門が提案した。にもかかわらず、人事部から「なぜ人事システムなのか。コスト削減を狙うのであれば、優先すべきシステムが他にあるのではないか」という疑問を投げかけられ、IT部門はこの問いにうまく答えられなかった。
このミーティングに緊迫した雰囲気は全くなかったのだが、クラウド化案件の行方を決定づける非常に重要な場面だったことは皆さんにもご理解いただけたと思う。実は「既存業務システムのクラウド化」は、クラウド化案件の中でユーザーや主管部門が最も抵抗を示すものの1つだ。何の対策もせずに話を持ち込むと、A社IT部門のように玉砕することを覚悟しなければならない。
新規のシステム化ならまだしも、既存システムが存在しており、これといってシステムに不満がない場合、「どうしてわざわざクラウド化するの?」という反応が返ってきて当然だ。特に最近、どこのユーザー部門も業務が増えているのに人を増やせない状況にある。「残業をしないように」というプレッシャーもかかっている。本当に既存業務で手いっぱいなのだ。そんなところに、「おたくのシステムをクラウド化すればコスト削減できる」と言われても、ユーザー部門としては「こっちは忙しいから、やるなら、よそのシステムでやってくれ」と、つい言いたくなるのである。
部分的な検討で終わらせない
では、どうすればこういう失敗を防げるのだろうか。より大きな説得力のある提案を考え、より大きな納得感を醸成しなければならない。そのためには、ひと手間をかける必要がある。
まず、クラウド化を検討する際に、すべてのシステムを俎上(そじょう)に載せること。システム台帳など全システムが記載されるリストを基に、各システムの現行維持コストや移行難易度にしたがって対象を絞り込んでいくのだ。次に検討過程を資料としてまとめ、ユーザー部門に提示してきちんと説明すべきだ。ここまですれば、ユーザー部門としても忙しいことだけを理由にクラウド化を断るわけにはいかないだろう。