ITエンジニアにとってプロジェクトは、実践的なスキルを身に付けられる場。しかし現場は日々の仕事に追われ、育成に掛ける手間も時間もない。意図的に工夫を凝らし、プロジェクトを「育つ場」に変える必要がある。

 「あなたのように仕事を丸投げして『こなせ』と言うだけのマネジャーには、ついていけませんよ!」。ボールドグロウスの上田智一氏(代表取締役社長)は、初めてプロジェクトマネジャー(PM)として携わった、大手製造業のサプライチェーン管理プロジェクトの進捗会議で、あるメンバーからこう言われたことがある。

 上田氏はこのときそのメンバーに、システムの設計標準の作成と、その標準に沿った設計書の作成という、二つの作業を割り当てていた。

 そのメンバーには設計書の作成経験はあったものの、標準作りは初めて。当時のスキルからすると、ハードルが高い仕事だということは分かっていた。それでも上田氏は、二つの作業をそのメンバーに自分の判断で進めてもらうと決めていた。上田氏自身が、初めてのPMの仕事で多忙を極めていたため、標準作りには手間を割けないという事情があったからだ。上田氏は「難しい仕事をこなすことでスキルも向上するだろう」と見込んでいた。

 しかし、上田氏の思惑通りに物事は進まなかった。本来なら、冒頭の進捗会議の時点で、設計標準も設計書もほぼ完成しているはずだった。実際には、標準作りは完成には程遠く、設計書も仕上がってはいない。担当したメンバーはというと、当然スキルが身に付いているはずもなかった(図1)。結局、仕事の任せ方が問題だった。

図1●プロジェクトでの育成は思ったようにはいかない
図1●プロジェクトでの育成は思ったようにはいかない
[画像のクリックで拡大表示]

 「いくら忙しくても、メンバーの力量を踏まえて適切にフォローしておくべきだった」。上田氏はこう思いながら、設計標準と設計書の作成作業を巻き返す策の検討に取り掛かった──。

実践的スキルを身に付けられる

 ITエンジニアにとって、システム開発プロジェクトは格好の「育つ場」である。現場で実際の仕事をこなすことで、書籍で製品や技術の知識を勉強したり、研修を受けたりするだけでは得られない実践的なスキルを身に付けられるからだ。

 システム開発はチームで進めるため、チームビルディングやチームのマネジメントも習得できる。「ユーザーやメンバーとのやり取りを通して、直面した課題に対応する力を伸ばせる」と、キヤノンITソリューションズの草地弘氏(金融事業本部 金融開発センター プロジェクト推進部 第一課 課長)は指摘する。

 PMにとっても、プロジェクトのメンバーの成長は大事である。必ずしもスキルの高いメンバーをずらりとそろえてプロジェクトを進められるわけではないからだ。プロジェクトをメンバーが育つ場に変えていかなければ、現場は立ち行かないのだ。