システム開発の成功には、メンバーのスキル底上げが不可欠だ。マネジャーの工夫次第で、プロジェクトは人が育つ場に変えられる。「任せる」「巻き込む」「兼ねる」の三つの工夫を実例で紹介する。

工夫1 任せる---リスクを避け高レベルを割り当て

 「それまで経験したことがない、高いレベルの仕事を任されたときに人は育つ」。ベテランITエンジニアへの取材を通して得られた結論はこうなる。

 アイエイエフ コンサルティングでPMを務めている石飛朋哉氏(コンサルタント)は、「メンバーとしての経験しかなかったのに、急にPMを任されたとき、かなりのスキルアップを図れた」と話す。ユーザーとの調整、メンバーへの作業依頼、プロジェクト全体の方針決定など、慣れない仕事の連続だったが、「やり遂げたことで、自信を持つことができた」と、石飛氏は振り返る。

 高いスキルレベルを必要とする仕事を任せたITエンジニアが、プロジェクトで育つのはなぜだろうか。住商情報システムの佐藤彰洋氏(流通・サービスシステム事業部 消費・流通システム部 主任)は「『いったいどうやればうまくいくだろうか』と考えながら一筋縄ではいかない仕事に取り組むので、スキルが身に付きやすくなる」と、説明する。

 限られた要員でシステムを完成に導くためにも、メンバーにスキルレベルを超えた仕事を担ってもらうことは必要だ。しかしその一方で、レベルの高い仕事を任せることには、リスクが伴う。「任せた仕事が進まなくなると、プロジェクト全体の進捗遅れにつながり、本来の目的であるシステムの完成を納期通りに迎えられなくなる」(TIS 金融事業統括本部 金融システム推進事業部 金融ソフトウェアエンジニアリング部 統括マネジャー 石川克起氏)からだ。

 リーダーやマネジャーには、計画したQCD(品質、コスト、納期)を損ねることなく、メンバーに高レベルの仕事を割り当てることが求められる。そのために現場では、「任せられる仕事を見える化する」「責任感をメンバーに持たせる」「レベルに見合ったフォローをする」といった工夫を凝らしている。順に見てみよう。

第一歩は任せられる仕事の見える化

 仕事を任せる第一歩は、メンバーに任せられる仕事の「見える化」だ。メンバーに何ができて何ができないのかを誰が見ても分かるようにする。そうすれば、「ちゃんとやってくれるのかどうか、などと心配をすることなく作業を任せることができる」(エスエムジー システムズコンサルティングデヴィジョン シニアテクニカルコンサルタント 山崎政憲氏)。

 エスエムジーでは、同社が手掛ける障害対策サービスに必要な作業すべてを表にまとめた「スキルチェックリスト」を作成。各メンバーにそれぞれの作業を任せられるかどうかが分かるようにしている(図1)。

図1●任せられる作業を見える化するための「スキルチェックリスト」
図1●任せられる作業を見える化するための「スキルチェックリスト」
エスエムジーでは障害対策サービスで必要な作業をリストアップした表「スキルチェックリスト」で各メンバーに任せられる作業を見える化している
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 スキルチェックリストには「学習(その作業をする上で必要な学習をしているか)」「実践(実際に現場で作業に携わったことがあるか)」「試験(ベテランから作業のコツや注意点といった質問が出される口頭試験をパスしたか)」という、三つの欄が設けられている。

 これら三つともにマネジャーが「○」をつければそれが「1人で任せられる仕事」になる。例えば、「トラブルシューティングで必要なツールを調査対象のシステムに適用できる」といった作業を単独でこなせるかどうか分かるのだ。また、「試験」が空欄など、必ずしも○が三つそろっていなくても、「周りのメンバーがフォローしながら仕事を任せる」などの判断が可能だ。

 チェックリストによる見える化は、仕事を任せられる側のメンバーにとってもメリットが大きい。「やり遂げた仕事の達成感を得やすい。達成感を得ることで、『次は取り組んだことがない仕事にもチャレンジしてみたい』という意欲を持てる」(ネットワークマネジメントソリューショングループ テクニカルコンサルタント 橋本拓也氏)という。