須高ケーブルテレビは、長野県小布施町において屋外型無線LANシステムを活用した「広域Wi-Fi(ホットエリア)」の評価試験プロジェクトを2011年2月7日に開始した。屋外型無線LANの基地局を複数台設置し、新ビジネスとして利用可能なサービスおよびパフォーマンスを評価する。また、地域コンテンツの活用や、コストあるいは使い勝手などの面からWiMAXとの比較検証などを進める。小布施町をはじめとする須高地区全域において、住民のニーズに応える無線サービスの構築を図る。さらに年100万人を超える観光客に向けた無線アプリケーションも検討をする。

 プロジェクトは、NTTPCコミュニケーションズおよびアクティスと共同で実施する。小布施町、小布施町立図書館「まちとしょテラソ」、北斎館、いい小布施ドットコム(観光情報を柱に地域情報を幅広く発信する小布施のポータルサイト)の協力を得る。期間は4月30日(ゴールデンウイーク後まで延長の可能性あり)までを予定する。

無線LANがモバイル端末で広がる

 ケーブルテレビ局にとって、ワイヤレスブロードバンドは経営戦略上、非常に重要なキーワードになっている。現状は、複数のケーブルテレビ局が地域WiMAXを選択し、業界最大手のジュピターテレコムはUQコミュニケーションズの設備を利用したMVNO(仮想移動体通信事業者)としてサービスを開始している。そうした中、須高ケーブルテレビは、異なる選択肢として無線LANに着目し、実験を展開することになった。

 無線LANの強みは、無線を搭載するほとんどのモバイル端末がサポートしていることである。iPod/iPhone/iPadはもちろんのこと、多くのスマートフォンや携帯型ゲーム機などが利用できる。従来型の携帯電話機でも、携帯網がパンクしないようにトラヒックを逃すために無線LANを搭載する機種が増えている。無線LANは、様々なモバイル機器の無線インフェースの標準搭載規格といえる状況である。無線LANをインタフェースにすると、地域住民にも観光客にも、専用の端末を配る必要はない。「より広範にいきわたっているものがいいのではないか」(須高ケーブルテレビの丸山康照社長)と考えたという。

 無線LANに着目したもう一つの理由がインフラ構築コストである。いくら便利な無線インフラでも、コストが高いとビジネスモデルが描けない。

検証項目はコストとビジネスモデル

 一般に無線LANの課題は、エリアカバーが限定されることで、ホット“スポット”という限定したエリアに向けたサービスが提供されている。今回のように、「広域Wi-Fiホット“エリア”」という形態でサービスを提供する場合は、複数の基地局を用意し、広いエリアをカバーする必要がある。電波の飛び方によって、基地局の数が大きく変わり、インフラ構築コストにも影響する。今回の実験では、ネットワークの技術的な電波範囲(カバレッジ)や通信品質のデータを収集し、実際に小布施町へ構築する際にかかる費用の試算することにしている。

 今回の実験では、小布施町の協力を得て、町内の2カ所にアクセスポイントを設置する(あと1台を須高ケーブルに設置し、合計3台導入する)。町役場や町立図書館「まちとしょテラソ」、また観光名所の北斎館などをカバーする。小布施町は、広域無線LANネットワークに向く特徴がある。「ほとんどの住民が半径2kmの範囲に住んでいる」(発表会に出席した小布施町副町長の小西勝氏)といい、狭いエリアに密集している。こうしたことから、無線LANの基地局は、比較的少ない台数で済み、広域無線LAN活用の利点がでやすい。

 ここでカギになる装置が、今回の実験で採用したキャリアグレードの屋外向け無線メッシュルーター「MSR2000」(米Aruba Networks製)である。メッシュネットワーク技術で有名だった米Azalea Networksが開発した。Aruba Networks社が同社を買収するが、2008年に開催された北京オリンピックでは50km平方の町全体を網羅する600のメッシュノードを構成し、音声と映像、無線LANサービスを提供したという。レイヤー3のルーティングをサポートし、特定のゲートウエイ装置にトラヒックが集中しないため、より広域ネットワークの構築が可能としている。

 この装置1台の価格は、推定で65万円程度という。アクセス用に使うことが想定される2.4GHzで、数10m~数百mに電波が届くという。実際には地形などによってコストが大きく左右されるが、狭いエリアという特徴から無線LANの利点が大きく生かせると期待する。