ARM系CPUのLinuxカーネルなどを開発する非営利組織「Linaro」が日本でも活動を開始した。国内メーカーに向けて成果物の採用を打診してきている。ARMコアを搭載した組み込み機器の開発効率の向上に寄与する。

 「日本国内のメーカーに、ARM用Linuxカーネルの採用を打診し始めた」。ARM用Linuxカーネルを開発する非営利組織「Linaro」でコミュニティベースの活動を進める「Linaro倶楽部」(仮称)の今村 謙之氏は、国内で動き始めたことを明らかにした。

 Linaro(http://www.linaro.org/)は、ARMアーキテクチャを採用したCPUコアに最適化したLinux環境を開発する組織だ。英ARM社が中心となって資金や人材を提供している。Linuxカーネルは、Linus Torvalds氏を中心にしたコミュニティが開発しているが、ARM向けに利用するには課題があるとする。

 その1つは、周辺機器ドライバの問題。ARMアーキテクチャを採用したCPUコアと周辺回路を実装した電子部品を「SoC」(System on Chip)と呼ぶが、このSoCは様々なメーカーで開発されている。そのため、メーカーごとにLinuxにドライバを組み込む必要がある。そのLinuxカーネルで動作するライブラリー類も独自に手を加えなければならない。

 もう1つは、省電力機能の不足。ARMが採用される組み込み機器には不可欠だが、本家LinuxカーネルではARMに適した制御が不十分だ。

 これらを解決するためにLinaroは、Linuxカーネルにドライバやブートローダー、電源管理にかかわるツールなどのカーネル周りのソフトウエア、開発環境(ツールチェイン)を提供する*1。既に最初の成果物である「10.11」が2010年11月に公開された。Linaroのサイトから入手できる。

 SoCベンダーや組み込み機器メーカーは、この成果物を採用すれば、開発効率をアップできる。既に、米Freescale Semiconductor社、米IBM社、韓国Samsung Electronics社、スイスST-Ericsson社、米Texas Instruments社などがLinaroに加わっている。

 Linaroが提供する成果物と、Androidは競合しそうだが、それはない。Linaroのターゲットは、OSの下位レイヤー部分と開発環境のみであり、ディストリビューションとしての提供は予定していない(図1)。実際、Androidをベースとした組み込みシステムの開発を促進する団体「Open Embedded Software Foundation(OESF)」では、同団体の開発するAndroidにLinaroのカーネルを採用する。国内でも、Linaroのカーネルを採用する動きが広まりそうだ。

図1 Linaroで開発する部分。OSの下位レイヤー部分と開発環境のみ
図1 Linaroで開発する部分
OSの下位レイヤー部分と開発環境のみ
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 Linaroでは、今後もARM用Linux環境の最適化を進めるとしている。半年ごとに新たなバージョンを提供するという。課題として、(1)Linuxカーネルおよびディストリビューション間のグラフィックスやマルチメディア機能の違い、(2)プロセッサが備える機能を使っていないため最適化が不十分なこと、なども挙げる。日本のベンダーも加わり、大きな動きとして発展する可能性もある。