最大データ伝送速度が約300Mビット/秒にもなる最新の無線LAN規格「IEEE 802.11n」は、既存の「IEEE 802.11a」「同b」「同g」とは性質が異なる。このため、11nを企業内に導入する際には、 規格自体や製品ごとの仕様の特徴をよく理解する必要がある。さらに、11nと11a/b/gで共通した無線LAN特有の設計・運用手法も押さえておくべきだろう。 そこで、 (1)チャネルの設計とアクセスポイント(AP)の配置、(2)セキュリティ、(3)異なる周波数チャネル の共存、(4)電源---の四つの視点から、この“超高速”無線LANの構築ポイントを詳しく見ていく。

 今回は(1)のチャネル設計とAP配置について解説しよう。

 無線LANの設計・運用の基礎となるのが、チャネル設計とAP配置である。有線LANのようにケーブルの配線工事は必要ないが、その代わりに、どの周波数のチャネルを使うか、APをどのように配置するかについて十分に検討する必要がある。

基本は5GHz帯だが、「DFS機能」に注意

 11nで利用可能な周波数帯域は大きく分けると2.4GHz帯と5GHz帯の二つがある(図1)。

図1●IEEE 802.11nで利用できる周波数チャネル<br>最大300Mビット/秒の速度を利用するには、従来規格の1チャネル分の20MHz幅を二つ使うチャネルボンディングという仕組みを使う必要があり、実質的には5GHz帯でしか利用できない。なお、W52とW53は屋内だけで使用できる。5GHz帯で屋外利用が可能なのはW56のみである。
図1●IEEE 802.11nで利用できる周波数チャネル
最大300Mビット/秒の速度を利用するには、従来規格の1チャネル分の20MHz幅を二つ使うチャネルボンディングという仕組みを使う必要があり、実質的には5GHz帯でしか利用できない。なお、W52とW53は屋内だけで使用できる。5GHz帯で屋外利用が可能なのはW56のみである。
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 2.4GHz帯は無線LAN向けに最初に開放された帯域で、古い無線LAN製品で使われてきた。この帯域はISMバンドと呼ばれ、Bluetoothやコードレス電話などの通信システム、電子レンジといった工業製品などに使われている。これらは無線LANにとって干渉源となり、データ伝送速度を低下させる要因となる。

 一方、5GHz帯は、無線LAN向けに開放された帯域で、干渉源となる他の通信システムがなく、データ伝送速度の低下を心配しなくて済む。

図2●「チャネルボンディング」の仕組み
図2●「チャネルボンディング」の仕組み
従来の2チャネル分の周波数帯域を1チャネルとして使うことで、スループットを2倍に増加。

 11a/b/gにはない11n特有の注意点は、最高データ伝送速度を得るために2倍の帯域が必要なこと。11nでは、既存規格の1チャネル(20MHz幅)を二つ束ねて40MHz幅にすることで高速化する「チャネルボンディング」という技術が使われている(図2)。最大300Mビット/秒を実現するにはこの技術を使わなければならない。そのためには、隣り合った20MHz幅のチャネルを二つ用意する必要がある。

 ところが、2.4GHz帯では利用できる全体の帯域幅が狭いため、チャネルボンディングを適用すると1チャネル分しか使えなくなる。