これまで見てきたように、問題になっている事実や情報をいかに掘り下げて本当の原因や課題を抽出できるかが、改革の推進を大きく左右する。

 ただし製造業の改革支援を多く手掛けるジェネックスパートナーズ(東京・港)の眞木和俊代表パートナーによると、現場力が弱い企業では以下の状況に陥っていることが多いという。「よく考えずに勘・経験・度胸に頼って原因を決めつける」「手当たり次第にデータを集めている」「やらされ感や徒労感がたまってモチベーションが低い」「分析手法に難しさを感じて腰が引けている」などだ。

 識者に掘り下げ力を強化するポイントを尋ねると以下の3点が浮かび上がる。(1)掘り下げ力の基本要素である国語力などの訓練、(2)掘り下げをけん引するエキスパートの養成、(3)それぞれの企業に合った掘り下げ方の標準手法を確立し全員参加で取り組む風土──だ(図1)。以下で施策を解説する。

図1●問題を掘り下げられない現場に見られがちな現象と対策
図1●問題を掘り下げられない現場に見られがちな現象と対策

まず「論理力」「国語力」を鍛えよ

 そもそも、掘り下げができている状態とはどのようなものか、一人ひとりが理解していないと現場の意欲は高まらない。だが、「初心者がなぜなぜ分析などを実行しても、つじつまが合わない文章や飛躍した表現を書いてしまいがち」となぜなぜ分析の指導を手掛ける小倉仁志氏は解説する。

 小倉氏は掘り下げ力を高める基本的なコツとして、特に3つの点を指摘する(図2)。1つ目は、前後の文章を逆順で読み返してもつじつまが合うように掘り下げること。例えば、「花瓶が床で割れていた」理由を掘り下げて「窓が開いていたから」というのは論理の飛躍がある。「花瓶がテーブルから落ちたから」と書けるよう指導する必要がある。

図2●問題を掘り下げる際に注意すべき要点
図2●問題を掘り下げる際に注意すべき要点
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 2つ目は、問題の再発防止といった業務・経営の目的に沿って掘り下げていくこと。よくあるのが、担当者の言い訳になるような掘り下げだという。「棚から取り出すべき部品を間違えた」理由として「部品が多かったから」ではなく、「部品の置き方に問題があったから」といった視点で掘り下げるよう指導する。

 3つ目は、様々な解釈が生じるあいまいな言葉を使わないことだ。例えば「確認が不十分」という表現は、「確認しようとしたができなかった」のか、「確認しなかった」のかがあいまいで、その後の掘り下げをミスリードさせかねない。論理力や国語力は掘り下げ力の基本スキルなのだ。

 新日鉱ホールディングスの事業会社である日鉱金属(東京・港)の白銀工場(茨城県日立市)は、小倉氏の指導を受けて掘り下げ力の強化に取り組んできた。 2005年以来、同氏から定期的になぜなぜ分析のチェックを受けるほか、JIPMソリューション(東京・港)のなぜなぜ分析の通信教育も併用している。「初めの1~2年は足踏み状態の職場が多かったが、2007年前半から改善のスピードが上がった」と電材加工事業本部銅箔事業部の幾島潔・白銀工場長は語る。同工場の主力商品である12ミクロンの電解銅箔の2007年度の生産量は2年前の1.4倍に、売上高は同1.7倍になった。