不具合を発見しやすいよう現場の情報収集や見せ方を工夫する「見える化」。IT(情報技術)を駆使して見える化に力を入れる企業は多い。

 見える化が本当に改革や改善成果を生むかどうかは、不具合の真の原因を特定して対策を打ち出せるかどうかにかかっている。ところが原因を掘り下げる力の強化は属人的なセンスやスキルの問題だとして、放置されてしまうことが珍しくない。

 2006年前半までのカルビーの「お客様相談室」も、見える化に目を奪われ過ぎ、もがいていた。

ただ聞くだけでは顧客の要望が分からない

写真1●カルビーの江木忍・執行役員CRMグループコントローラーは「顧客の声は宝石の原石。うまく掘り下げて聞き出さないと光らない」と話す
写真1●カルビーの江木忍・執行役員CRMグループコントローラーは「顧客の声は宝石の原石。うまく掘り下げて聞き出さないと光らない」と話す
(写真撮影:菊池 くらげ)

 「分析しがいのある顧客の声がほとんど集まらない」──。2006年の前半、カルビーのお客様相談室を管轄する江木忍・執行役員CRMグループコントローラー(写真1)は、顧客の声を印刷した分厚い紙の束を眺めながら途方に暮れていた。

 同社は2004年に「VOC(ボイス・オブ・カスタマー)委員会」を社内で組織化し、お客様相談室を積極的に活用する方針を打ち出した。スナック菓子を主力とする同社にとって、少子化に伴う国内人口の減少は大きな逆風である。顧客一人ひとりの声に耳を傾け、要望を“見える化”して対応していくことが不可欠と判断したのだ。

 同方針のもと、2005年には商品パッケージやウェブサイトを一新。「お客様のお声をおきかせください」と大きく表示し、どんな時でも声を聞かせてくださいという姿勢を示した。

 これが功を奏し、1週間に数百件もの顧客の声が寄せられるようになった。中田康雄社長から「全件対応するように」という指示を受けていたこともあり、同社のオペレーターは一言一句漏らさぬように聞き、記録していった。

 だが、懸命に顧客の要望を見える化したにもかかわらず、改善につながる有効な情報はほとんど集まらなかった。むしろ情報量が増え、声を分析する要員の苦労が増えるばかりだった。

 江木執行役員はこの状態を打開するため、天野泰守お客様相談室長らと顧客の声を分類した。するとオペレーターがその場で対応できる内容と、商品担当者などの2次対応が必要な内容のほかに、「どちらとも判断がつかない、なぜ顧客がわざわざ電話してきたのか分かりにくい内容がかなりあった」(天野お客様相談室長)。顧客の声を見える化したものの、掘り下げが足らず、本当の要望を聞き出せていないことに気がついた。

 例えば、「○○がおいしかった」という声が多数寄せられていた。これに対し、多くのオペレーターは顧客に礼を言って通話を終え、それが月に何件寄せられたか数える程度にとどまっていた。

 だが「なぜ電話をかけてまで伝えてくれたのかを聞き出せていれば、ほかの商品に応用できるヒントが見つかったかもしれない」(江木執行役員)。機転を利かして要望やヒントを引き出すことを、派遣社員などを含むすべてのオペレーターに望むのは難しい。事前の準備が必要だ。このため江木執行役員らCRMグループは、顧客が問い合わせる理由を掘り下げる活動に着手した。どんな質問をすれば有効な情報を引き出せるかも分かるようになる。オペレーターが的確に顧客の要望を引き出せる対応表の作成を目指した。

なぜなぜ5回で顧客の問い合わせを掘り下げ

 顧客が問い合わせてきた理由を掘り下げていくに当たり、カルビーはトヨタ流改善活動にヒントを得て「なぜなぜ5回」の手法を応用することにした。「なぜ」を繰り返しながら問題点や原因を突き止めていく手法だ。

 例えば、アレルギー物質の有無を問い合わせてくる理由はなぜか。「商品を食べてしまったから」「食べてはいないものの不安に感じたから」などの理由が考えられる。後者とすると、なぜ食べていないのに不安に感じているのか。「商品パッケージに記載されたアレルギー物質に気づかなかったから」「気づいてはいたが、内容を理解できなかったから」といった理由が考えられる。

 様々な問い合わせに対して丹念にこの作業を繰り返した。掘り下げた結果はロジックツリーにまとめた。最初の問い合わせに潜み得る顧客の要望を網羅した後は、要望を特定するための質問文を作成した。上記の例でいえば、アレルギー物質の有無を問い合わせた顧客に対しては、「商品を召し上がりましたか」「パッケージのアレルギー物質の情報にはお気づきになりましたか」といった質問をすることになる。