クラウドソーシングの事例として、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用し、顧客と直接コミュニケーションを取りながら顧客視点のアイデアを吸い上げて新商品を開発する取り組みもある。顧客から活発な意見を引き出すために、即興的に場を盛り上げる工夫が求められるなど、効果的な運用にはまだ課題が少なくない。

 インターネット上に、友人とコミュニケーションを取る場や、趣味など共通の話題を持つ人同士が知り合う場を提供するサービスであるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。国内最大手の「ミクシィ」の利用者数が2007年3月に1000万人を突破するなど、活況を見せている。

 このSNSの普及ぶりを見て、「商品開発のアイデアを吸い上げる、顧客との新しい接点になる」と考える企業が相次いでいる(図1)。カップ麺大手のエースコック(大阪・吹田)は、ミクシィで公募したアイデアを基に開発したカップ麺とカップ春雨を2007年12月に発売した。効果に満足した同社は、この4月に企画の第2弾を始めた。

図1●ネット利用者のすそ野の広がりと共に顧客参加型の商品開発が活発化
図1●ネット利用者のすそ野の広がりと共に顧客参加型の商品開発が活発化
*インターネットの利用者数は総務省の平成18年「通信利用動向調査」に基づく。ミクシィの利用者数は各年12月時点の値
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 ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル(東京都千代田区、以下、ソニー・ミュージック)も、ミクシィで海外アーチストの楽曲の人気アンケートを取り、上位に入った曲を収録したコンピレーションCD*1を2008年2月に発売した。このほか、全日本空輸(ANA)がマイレージ会員向けのSNSサイト「旅達空間」を2007年12 月に開設し、顧客参加型の商品開発を今後手掛ける意向だ。

 先行企業に聞くと、多くの顧客とコミュニケーションを取ることで有効なアイデアを得る手応えをつかんでいる。ただし、大ヒットを生んだ事例はまだ出ていない。スムーズにアイデアを出し合える雰囲気作りや、SNSらしい口コミを軸にした販促方法を各社とも試行錯誤している段階だ。

意識の高い顧客の声を引き出せる

 通信ネットワークを介して顧客に商品開発に加わってもらう手法自体はこれまでにも存在した。ただし、今のSNSに匹敵するコミュニティー・サービスはネットには無かった。従来のネットのあり方に比べて、利用者のすそ野が広がったこと、そして、利用者が意見を発信しやすくなったことがマーケッターから期待される要因だ。

 ミクシィの利用者は一般に、特定の趣味やテーマに関心を持つ人同士が交流する「コミュニティー」を利用している。エースコックはコミュニティーの活況ぶりを観察し、「一般のウェブサイトでアイデアを募るよりも前向きな意見を集めやすい」(村上稔マーケティング部主任)と考えた。そこでミクシィ内に 2007年6月に公認コミュニティーを開設し、利用者と意見交換を始めた。

 SNSには、利用者の姿が見えやすいという特徴もある。サービスを利用する際に、年齢や性別、居住地域といった情報を登録する必要があるからだ。この属性情報を参考に、開発する商品が受け入れられる顧客の姿を推測できる。

コミュニティー開設フェーズ

広告や他の媒体で参加者を増やせ

 SNSによる顧客参加型の商品開発は、(1)公認コミュニティーを開設する、(2)コミュニティーの参加者からアイデアを募集する、(3)開発した商品を販売する、という3つのフェーズに分かれる。それぞれに課題がある。「いかにコミュニティーに人を集めるか」「いかに参加意識を高めるか」「いかにできた商品の口コミを盛り上げるか」だ(図2)。

図2●顧客参加型商品開発の各フェーズで見えてきた課題
図2●顧客参加型商品開発の各フェーズで見えてきた課題

 SNSで不特定多数と協業するためにまず必要なのは参加者の募集である。ミクシィに公認コミュニティーを作ること自体は簡単だ。ソニー・ミュージックは、ミクシィに2007年6月に打診し、同年9月にコミュニティーを開設した。

 ただし、企業がコミュニティーを開設したからといって、すぐに参加者が集まるわけではない。ミクシィには1000万以上の利用者がいるが、コミュニティーの数も約200万ある。そのままでは利用者の目に止まりにくいからだ。

 エースコック、ソニー・ミュージックとも、初期段階はミクシィのサイト内のバナー広告の枠を購入して認知を図り、コアになる参加者を集めた。類似する話題のコミュニティーにリンクを張ってもらうことを依頼したり、ミクシィ以外の場所で告知したりするなどの工夫も必要だ。

 エースコックは2007年6月のコミュニティー開設から3週間で約2300人、ソニー・ミュージックは同年9月からの1カ月半で約1300人の参加者を集めた。両社ともに、アイデアの募集やアンケートの実施には十分な参加者を集めたと考えている。

 商品企画~開発フェーズと商品発売フェーズについては次回(第4回)で解説する。