クラウドソーシングとは不特定多数のネット利用者から知的生産力やコンテンツなどを調達する取り組みのこと。知的労働力を低コストで調達できる半面、品質チェックの手間がかかる。作業の標準化やチェックを効率化する仕組み作りが鍵を握る。

 新商品のアイデアを募集するなど、企業がインターネットを通じて不特定多数のネット利用者に知的労働を委託する動きが盛んになってきた。「クラウドソーシング」と呼ばれる取り組みだ()。

図●インターネットを介して不特定多数のネット利用者に知的労働を委託
図●インターネットを介して不特定多数のネット利用者に知的労働を委託

 「クラウド」とは群衆のこと。つまり群衆に業務をアウトソーシングするという意味である。米国の編集者であるジェフ・ハウ氏が2006年に米『ワイアード』誌への寄稿でこの言葉を利用して以来、有名になった。翌2007年には解説書が出版され邦訳も2008年に出版された*1

 クラウドソーシングの特徴は、多人数の知的労働力を相対的に低コストで利用できることだ。インターネットが普及したことで、大規模な知的労働をネットを通じて個人に呼びかけ、互いに協力できる環境が整ったことが背景にある。クラウド一人ひとりの能力は玉石混交だが、多く人数が集まるほど、優秀な人材もその中に多く含まれる。

 リスク要因は、互いに足を引っ張り合って「船頭多くして船山に上る」に陥る可能性や、品質チェックや成果物をふるいにかける(スクリーニング)作業が膨大になりがちといったことだ。

 先進事例を見ると、品質チェックやスクリーニング作業の負荷を下げることに工夫を凝らしている。作業を標準化して品質のばらつきを減らす工夫や、チェックを効率化する仕組みが必要だ()。

図2●主なクラウドソーシングの取り組み
表●主なクラウドソーシングの取り組み
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10カ月間で4000以上のレシピを集める

 クラウドソーシング事例の中で、ハードルが比較的低い活用方法は、一般消費者から商品利用の創意工夫や知恵を募集する取り組みである。

 ハウス食品は2008年2月から11月にかけて、「GABAN」ブランドのスパイスを使った料理レシピの収集にクラウドソーシングを活用した。アイランド(東京都品川区)が運営する、料理をテーマにしたブログを統括するポータル(玄関)サイト「レシピブログ」を通じて、毎月3種類のスパイスをブロガー(ブログの書き手)100人に配布。考案したレシピをブログで紹介してもらった。

 同社は、スパイスを使うことにハードルの高さを感じている一般家庭向けに、使いやすいレシピの開発が必要と考えていた。しかし、社内の要員で開発するのは限界がある。そこで料理ブロガーにレシピ考案を委託した。

 施策の結果、10カ月で4678件のレシピを収集できた。「スパイスの利用方法が適切でなかったものなどを差し引いても十分に集まった」(香辛食品部の栗本宜長販売企画マネージャー)。収集したレシピを活用し、2009年4月にはスパイス専用のポータルサイト「スパイスブログ」を開設。レシピを探しやすくして販促に生かしている。

 レシピのチェックは5人の担当者が手作業で実施したが、さほど手間はかからなかった。レシピという身近なテーマだったことに加え、「登録者の6割がほぼ毎日ブログを更新するなど、意欲の高いブロガーを組織化している」(アイランドの粟飯原理咲代表取締役社長)サイトで募集した効果もあった。

新商品開発に必要な専門技術を公募

 クラウドソーシングの取り組みは、企業対企業、もしくは企業対専門家といった関係作りにも見られる。プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)ジャパンは商品開発に必要な専門技術を調達する手段として使い始めた。必要とする技術を公募する専用サイトを2009年3月に開設した。

 米P&Gによると、この取り組みは外部の技術や研究成果を取り込んで新製品開発の効率を高める施策「コネクト・アンド・ディベロップ(C&D)」の一環だ。「新商品のうち既に約50%が外部の知恵を取り入れたものとなっている」(スティーブ J.バゴット対外事業開発ディレクター)。日本企業も協力しており、例えば、ほこり取り器「スウィッファーダスター」にはユニ・チャームが技術供与している。

 米P&Gは2007年に自社でC&D専用サイトを開設。2008年にはサイト経由で約4000件の技術情報を集めた。一般企業がネットを介して技術を公募する事例は米国でも珍しく、クラウドソーシング関連の書籍や論文でもたびたび取り上げられている。

 ただし、収集した技術情報のうち、実際に商品開発に取り入れたのは数%程度。他社の特許に抵触しないか、自社の戦略と合致するかなどを、C&D の専任担当者や各事業の研究員が多段階でチェックしているからだ。労力はかかるが、「あらゆる技術を自社開発するよりも時間やコストを大幅に節約できる」(松尾裕志・対外事業開発アソシエートディレクター)。C&D戦略で生まれた新製品の多くは、発売1年目から利益を上げるという。