香港はシンガポールと同様、主要通信事業者の海底ケーブルが集まる通信のハブだ。近年は中国本土へのゲートウエイとして、データセンター需要が拡大しており、アジアの「クラウドハブ」になりつつある。香港特別行政区政府によれば、現在、サーバー台数が数千台を超える大規模データセンターが20棟存在するという。

 中国市場に進出したものの、中国本土ではなく香港でシステムを運用するITベンダーやユーザー企業は少なくない。

 香港は1997年に中国に返還された後も、「一国二制度」の方針の下、香港特別行政区として中国とは異なる政治・経済体制による自治が行われている。そのため、香港にデータセンターを構えた場合、中国本土のようにインターネットの検閲がされたり、許可のない暗号化通信を禁止する規制が適用されたりすることがない。

図3●香港日本通運は日本を除くアジア地域のサーバーを香港に集約
図3●香港日本通運は日本を除くアジア地域のサーバーを香港に集約
従来、日本を除くアジア地域の各拠点で運用していた6台のサーバー(IBM System iシリーズ)を香港に集約した
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 アジア地域のクラウドハブとして、香港を選んだ1社が日本通運だ。日本を除くアジア地域の基幹系サーバーを、香港のデータセンターで運用している(図3)。従来はアジアの各地域でサーバーを運用していたが、1年1台のペースで香港へのサーバー集約を進め、2011年2月に移転を完了した。

 中国本土にある拠点からも、香港のサーバーを利用している。「MPLS(IP-VPN)が安価になり、国境を超えてのサーバー利用が容易になった」(香港日本通運の門脇悟マネージャー)と判断し、サーバーを香港に集約した。

 香港日本通運の橋田武博マネージャーは、「香港は中国語と英語に堪能なエンジニアの雇用が可能で、システムの開発や運用に適している」と語る。